龍馬伝、第四話、感想

三話を飛ばして四話である。
千葉定吉里見浩太郎が演じている。好き好きだろうが、私は余り好まない。途端に作り物めいて見える。時代劇という様式が透けて見えてしまうのだ。時代劇は伝統芸能ではないが、歌舞伎や狂言などの伝統芸能の役者が大河に出演することも多く、演技を絶賛されがちだが、私はさほど感心した試しがない。
型を見せられている、そう感じる役者も多かったからである。さすがに勘三郎は「型破り」だが、ああいう役者はそうはいない。香川照之さんも順当に行けば梨園の人となったはずだが、結果的にはそうならずに良かったのだろうと他人事ながらそう思う。龍馬伝第四話でも、岩崎弥太郎がいちいち愛らしいこと。ただ、今回は事実上の副主人公でありながら、やはりあくまで脇なので、加減が求められるだろう。香川さんくらいになれば求められる課題もハイレベルになるものだ。
千葉さな子が登場した。演じる貫地谷しほりは「風林火山」で演じた山本勘助の妻ミツが印象深い。千葉さな子は「千葉の鬼小町」なるキャッチコピーからも分かるようにやや戯作的な人である。もちろん生真面目な人ではあるのだが、いわば類型的に「キャラが立っている」人だと言えよう。
千葉さな子にはいろいろと謎がある。
結局、龍馬と婚約していたのかどうなのか。双方共に好意を抱いていたのは確かなようだが、婚約という形をとっていたのかどうか、もしとっていたなら龍馬は結局、おりょうと夫婦になったわけで、不実を働いたことになる。
もっとも、おりょうとも祝言をあげたわけでもなし、「婚約」「結婚」という意識がどれほどの真剣さを伴って龍馬にあったのかも分からない。
ともかく、千葉さな子の方には、自分は龍馬の室であるとの意識があったようで、明治29年に没するまで、独身を守った。
よく分からないのは明治時代の千葉さな子の経歴と境遇である。女子学習院の舎監を務めているがどういう伝手でその職を得たのか。その職を退いた後、天涯孤独となったようだ。
それもまた良く分からないところである。兄・重太郎に子孫はいなかったのか。千葉本家は続いているのだから、そちらとの付き合いはどうなっていたのか。それに痩せても枯れても天下の北辰一刀流である。門弟も多かったはずで、そういう人たちから支援が無かったのか、その「天涯孤独」ぶりが意外である。
晩年の千葉さな子を保護したのは山梨県の在野の自由民権運動活動家の小田切謙明である。自由党の活動家のひとりとして、土佐閥の面々とも交流があった小田切謙明は、元々はその夫人が千葉さな子と交流があったらしい。何かの折に実は龍馬の室であると聞いて、土佐閥を通して早くから坂本龍馬という「偉人」を知っていた謙明はこれは大事にしなければいかんということで、とうとう最後まで面倒を見た。
田切家は山梨では素封家で知られ、謙明は生涯、労働をしたことがなかった。彼自身は政治家を目指し、衆議院議院選挙等に何度も立候補したが一度も当選せず、ついに何者になることもなく歴史の中に消えてゆくことになった。
今日、彼の名が語られるのは自由民権運動史で名前が軽く挙げられる以外には、千葉さな子の保護者として言及される時のみである。
千葉さな子の墓は小田切家が建立し、「坂本龍馬室」と墓に刻まれている。おりょうが見たならば激怒するであろう。