緒方拳逝去

緒方拳。
この人を見ていると、役者の上手さとはいったいなんなのだろうと思った。
上手いなあと思う時もあり、下手だなあと思う時もあった。
中くらいがない人だった。
達者か、大根か、両極を出す人だった。
最近では昨年の大河ドラマ風林火山」で、長尾景虎の軍師の宇佐美定満役が記憶に新しい。
上手い下手以前にカツゼツが悪すぎて、何を言っているか聞き取れなかった。
老いた、と感じたが、あるいはあれも病のせいだったのかもしれない。
宇佐美定満は後に、上杉家中の不穏分子を除くために、自らが犠牲になって「私闘」を行った結果、自分は死に、一族は家中追放処分に処された武将である。
「私闘」を行うは法を曲げることであり、その処分において、私情で法を曲げてはならぬとあらかじめ謙信に進言をしたうえでの、覚悟の「私闘」だった。
北条、武田、今川と、関東甲信越の大名家が潰れていく中、上杉家だけがともかくも存続をまっとうできたのは、謙信に宇佐美、景勝に直江のごとき無私の参謀がいたからだ。
その無私の人を演じるには、緒方拳は生臭い人だった。
毛利元就」では稀代の陰謀家、尼子経久を演じたが、あれこそが適役だった(あれは急死した萬屋錦之介の代演だったが)。
この人の出世作となったという「太閤記」を私は無論、未見だが、いろいろな人が秀吉を演じたが、「暗い秀吉」ではなかったかと思う。そして秀吉は暗い人だっただろうと思う。
昭和30年代、昭和40年代そのものが暗い人たちの時代だったのだから、戦後の日本人のリアルな姿を生きた人なのだと思う。