Princess とは何か

日本ではプリンスと言えば、王室の出生による男子を指すと思っている人も多いと思う。それは間違いではないけれども、王室の出生による男子ではない、君主/諸侯としてのプリンスもいて、ウェールズ公の「公」はデュークではなくプリンスである。
ウェールズの王子ではなくて、ウェールズの君主であるプリンス、である。
もちろん、今現在、ウェールズにおける君主がエリザベス女王ではなくチャールズ皇太子だというわけではないけれども、もともとウェールズ公は、イングランド王やスコットランド王と並立した君主であって、イングランドウェールズを併呑する過程で、イングランド皇太子に授与される称号になった。
英国皇太子はウェールズ公位の他にも、コーンウォール公の称号を持つが、コーンウォール公の公はデュークであって、これはイングランド貴族の称号であり、コーンウォールの君主称号ではない。
コーンウォールもまたウェールズと同じくイングランドに歴史的に呑み込まれた地域であり、今日でも分離独立運動があるが、君主の称号で見る限り、扱いとしてはウェールズよりも下になる。
デュークの配偶者がダッチェス(公爵夫人)であるように、王家の男子であるプリンスの配偶者をプリンセスと呼ぶことはおそらく技術的に不可能ではないだろうけれども、ダービー伯爵の夫人がダービー伯爵夫人であるように、チャールズ王子の夫人はチャールズ王子夫人(Princess Charles)となる。
もちろんこれは相当に奇異な呼称なので、通例では、王子の配偶者は王子に授与された爵位の夫人呼称で呼ばれる。
その場合、ヨーク公アンドリュー王子の夫人だったセーラ・ファーガソンは、ヨーク公妃セーラ(Sarah, Duchess of York)であり、プリンセスと呼ばれる余地は無い。
プリンセス+ファーストネームの組み合わせは、基本的に出生による王家の女子のみに用いられるものである。
しかしダイアナ皇太子妃の場合は事情が特殊であって、彼女がウェールズ公妃(Princess of Wales)であったことから、Diana, Princess of Wales の略称としてプリンセス・ダイアナと呼ぶことは(正確ではないが一般的には)可能かも知れない。
さて、その Princess of Wales であるが、これはウェールズ公の配偶者の呼称であり、これまで9名の女性がこの呼称を保有していた。
皇太子を特別に歴史的な称号で呼ぶ例は他の欧州王室にも例があり、スペインのアストゥリアス公、オランダのオラニエ公などがある。いずれも Duke ではなく Prince である。
Prince of Orange はオランダにおいて Prince of Wales と同様の用いられ方をしていると大雑把に言うことは出来るが、オランダは絶対長子相続制に継承制度を移行させており、それに伴い、Princess of Orange をオラニエ公の配偶者呼称から、女性皇太子の付随称号に切り替えている。
つまり、現在のオランダ皇太子はオラニエ公であるが、皇太子妃はオラニエ公妃ではない。
英国の場合は、傍系に対する直系の優先・女子に対する男子の優先・年少に対する年長の優先・女系に対する男系の優先の順で王位が継承されるため、女性皇太子という地位は理論的に存在が不可能であり、現女王も、事実上、即位前は皇太子同然であったけれども、皇太子ではなく、無論、ウェールズ公ではなかった。
ジョージ6世の時に、事実上の王位継承者であるエリザベス王女をウェールズ公、この場合、彼女は女性なので Princess of Wales になるが、それに叙すべきではないかとの意見も強まったが、国王は勅令を出し、Princess of Wales の呼称が、ウェールズ公妃の呼称であることを改めて確認している。