坂の上の雲

録画していたNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」を第三回分まで先日視聴した。
いろいろと、カネがかかっているなあという出来であり、今年の大河ドラマの並外れたチープさ具合も、このドラマのせいだったのかも知れないと思った。
明治の若者たちの向上心には胸を打たれる。あの原作小説には史観的にいろいろな批判もあろうが、それでも坂の上の一条の雲を見つめてただひたすらに空へと向かって歩いたあの時代の空気はよく描けていると思う。
キャストは当代で望み得る最上の適役であろう。三顧の礼を尽くして映像化を成し遂げただけに、司馬遼太郎への義理立てからも、適当な真似はできるはずもないが、本来ならば、作品への敬意があるならば、この姿勢をNHKはあらゆるドラマで貫くべきなのである。
この作品は脚本家・野沢尚の遺作ともなるが、作品への敬意があるならば、今年の大河ドラマの脚本家など起用できるはずもない。
ところで、先日、学研が「科学」と「学習」の廃刊を決定した。
これも戦後という時代の、坂の上の雲を見つめた時代の終わりを思わせた。
私ももう自分よりも上の世代の人たちのせいにして済む年齢ではないから、今、育ってゆく若い人たちには漠としつつも、申し訳ない気持ちを抱いている。
彼らにとって未来はどのように見えているのだろうか。まだ私が少年の頃は未来は希望に輝いていた。道のりに高低はあっても、ともかくかけて行けばいずれは雲を掴める、そうした楽観主義が当然のようにあった。
今のこの国で、ますます老いてゆくばかりのこの国で、今日よりも明日がよくならないと分かってしまっているこの国で、育っていくということはいったい何を意味するのだろう。