Idus Martiae

スエトニウスによる史書、「ローマ皇帝伝」では、ローマの独裁者カエサル暗殺の日の逸話として、次の話を伝えている。
ある占い師が3月の中日(idus martiae)に、カエサルに危機が訪れると予言した。
3月の中日が来て、元老院議場へ向かうカエサルが、道のりの途中でその占い師に会った。
「3月の中日が来たが、何も変わらぬよ」
と、カエサルは笑って言った。
その占い師答えていわく、
「さよう、その日が参りました。されどいまだ終わったわけではございません」
元老院議場に地中海世界の支配者として入ったカエサルは、死体としてそこを出た。


ローマの話をしたいわけではなく、今日の話は韓国の経済の話である。
9月危機が囁かれ、その最大の山場とされた9月11日は「乗り切った」ように見える。
しかし危険な地帯を抜けて、安全地帯に入ったわけではなく、依然としてカラータイマーは点滅を続けている。
9月はまだ終わったわけではない。
とは言え、9月11日を過ぎれば、次の山場となる11月までは、若干のウォン高含みで推移するのではないかと思っていたが(ウォンを売るために買うから)、あいかわらずの一進一退が続いている。
韓国の外貨準備高が2400億ドル、しかし短期債の返済に備える必要があることから、実際の流動性自体は300億ドル程度と見られている。
まだ詳細な数字は出ていないようだが、この一連の期間中に韓銀が投入した資金は300億ドルでは到底おさまっていないはずで、流動性の限界をとうに過ぎて、ロールオーバー(借り換え)が出来なければそこで破綻、という危機は更に強まっている。
そのことが更に韓銀が通貨介入せざるを得ない必然を招いているわけで、ソロスに攻撃された時のイングランド銀行のようには、ゲームを降りることも出来ない状況に追い詰められている。
各国の通貨の評価は、基本的にはその国のファンダメンタルズを反映するものだが、それぞれの国の思惑があって通貨介入が行われる。
それが極端な傾向を示せば、経済の実態との乖離が生じるわけで、そこをハゲタカファンドに突かれることになる。
資本収支を除けば、あらゆる収支が赤字化している韓国にあっては、ウォンの買い手が基本的には非常に稀少な状況にある。
資本収支は黒字であればいい、赤字であれば駄目だというものではなく、要はその内容である。
資本収支が黒字ということは、外国からの投資が韓国から流出する資本よりも多い、ということだが、これが設備投資であれば長期的かつ将来の経済成長につながるので何の問題もないのだが、韓国の場合は借金である。
それも設備投資のためではなく、いうなれば生活のために消費者金融から借金を重ねるようなもので、筋は非常に悪い。
当然、危ないことこのうえないので短期での外債に頼らざるを得なくなる(長期では危なくて貸し手がいないから)。
その結果、外貨準備高(そのほとんどはこの短期債によるもの)の流動性はますます縮小し、借金を返済するために、比較的なウォン高を維持しなければならない必要が強まる。
そこを見透かされているのだ。韓銀は必ず介入せざるを得ないと。
その結果、ハゲタカファンドに狙い撃ちをされ、あたらドルを無駄に減らしてゆくことになる。
これは現在進行形の話であり、韓国経済危機を過小評価する見方は、その楽観論の根拠をほとんどまったく示していない。
頼みの綱の貿易収支ですら赤字とあっては、実際のところ既に積んでいるに等しい。今はどれだけむしりとれるか、搾取が進行中のため生かされている、という程度のことだ。
他人事ながら背筋が寒くなるような状況だが、ドル運用の年金資金も投入している模様であり、このままでは骨の髄までしゃぶりつくされるだろう。
早々にデフォルトになったほうがまだしも傷は小さいだろう(と言っても、餓死者がでるほどの破綻は避けられないだろうが)。
この危機の直接的な要因が、原油高に見られる、貿易収支の急激な悪化にあるのだとしても、現状でもかつてのNIES諸国のうち韓国以外はなおも貿易収支は堅調なのだから、そうした不安定要因ひとつでこれほどの危機に陥るほどのファンダメンタルズ、構造を維持してしまったのは、韓国政府の長年の政策の問題であり、なにかしらひとつの政策を抜き出しても、その悪影響は限定的であるとしても、全体の利益の勘定からすれば筋が通っていないものが多々あった。
しかしそれらの多くは韓国経済の構造、大雑把な言い方をすれば国民性に由来しているので、改善は非常に難しい。韓国が民主主義国家であればあるほどなおのこと。