憧れの人

子供の頃に憧れた人には、今でも忠誠心めいたものがあるのを感じる。
長嶋茂雄氏に対して、私は何の憧憬の念も感じないが、子供時代に彼がヒーローだった人にとって、老いてなお、氏が憧れや愛情の対象であること自体は人の心の動きとして、理解できなくもない。
さて、と思い返してみると、私にはさほどの憧れの人というものは、かなり長いスパンをとってみても、ほとんどいなかったように感じるが、それに近い存在としては、月並みではあるが子供の頃に見た特撮ヒーロー、あるいはそれを演じていた俳優がそうではないかと思う。
101回目のプロポーズ」なるテレビドラマに、俳優の長谷川初範氏が出演していたのを見た時にものすごく心ときめいたのは、氏が幼児の頃の私にとってヒーローだったからではないか。
氏はごく若い時に、「ウルトラマン80」に主演していたが、幼児としてそれを熱狂的に視聴していた私は、「ウルトラマン80」の人が健在であったことが我が事のように嬉しかったのを記憶している。
そのドラマを一緒に見ていた姉などは、ナイスミドルな長谷川氏が彼女の好みにあっていたようで、うっとりと画面を見ていたが、かつて「ウルトラマン80」を見るためのチャンネル権争いで、しばしば姉にしてやられていた記憶を持つ私にとって、彼女などは「ウルトラマン80」の中の人である長谷川氏にうっとりとする資格などないように思えたのだった。
長谷川初範氏が私にとって何よりもまず、「ウルトラマン80」の人であるように、俳優の村上弘明氏は同じく「仮面ライダー(スカイライダー)」の人である。
村上弘明氏はいまさら、「仮面ライダー」を持ち出す必要もないほどに、俳優として実力、名声を兼ね備え、確固たる地位を築いている人だが、それでも氏は私にとっては何よりもまず「仮面ライダー」の人であり、氏が地位を築いてゆく過程を遠巻きに垣間見ながら、あくまでこちら側の一方的な思いではあるが家族が気をもむような気持ちで彼の成功を願い、喜んできたのだ。
当時在籍していた事務所の方針らしいが、村上氏が一時、「仮面ライダー」に出演していた過去を封印していたのは悲しいことだった。
今も数多くの「ヒーロー」たちが輩出されているが、それぞれの戦略と事情はあるとはいえ、彼らヒーローやヒロインたちを支持してきた子供たちやかつての子供たちのために、過去を封印するようなことはしないで欲しいと思う。
もっとも村上氏は今は屈託なく過去のことを語ることもあるようで、何かのおりに「仮面ライダー」に言及していた氏をテレビで見た時には涙が流れる思いがした。