有色人種の血

日本人が蒙る不愉快程度であれば、世の常としていずこにも排外主義はあるのだから、海外で愉快ならざる目にあったとしても殊更、レイシズムと騒ぎ立てるほどのこともないかも知れない。
しかし、と思うのは、こう言っては何だが、日本人だと分かっていてなおある種の未開人めいた扱いをしてくる無知で粗野な辺境の白人が、日本人以外のアジア人に対してはなおさら侮蔑的に振舞っているであろうことは容易に想像がつくことだ。
歴史の結果として、現在の世界は帝国主義の時代がもたらした土台の上に成立していて、そのすべてをご破算にするわけには現実的にはいかない。
そしてこの世界にあっては白人であることは、有利であるのは間違いない。
ゆえに、例えば過去の奴隷貿易について現在の政府は黒人などに直接的な補償をすべきではないかという議論も生じるし、実際にそういう要求はなされている。
あるいはアメリカやオーストラリアの先住民に対して白人住民が歴史的な負債として補償をすべきではないかという議論もある。
この場合、難しいのは、では、黒人や先住民の定義は何かということである。
例えば、ビル・クリントン元大統領は明らかに白人であるが、彼の先祖のひとりには先住民があり、現在の緩和された基準に拠れば、彼をアメリカ先住民と呼ぶことも不可能ではない。
オバマ大統領は明らかに黒人として遇され、そこから生じてきたデメリットも味わってきたはずだが、少なくとも彼の母系は白人であり、半々であるならば彼を白人とみなすことは彼を黒人とみなすのと同様の妥当性を理論的には持つ。
実際には、特にアメリカの白人はそうなのだが、混血が進んでおり、純粋な黒人、純粋な白人はほとんど存在しない。
その場合、当人も白人と思い、周囲もそう見て、白人であることによるある種の特権を享受しながら、わずかに有色人種の祖先を持つがために、それが「言い訳」として作用する可能性もある。
本来の目的は社会的な「特権と格差」の是正にあるのだから、実を言えば生物的な血統は関係がない。生物的な血統に基づくとされる社会的な属性が問題なのだから。
であるから、白人として遇されている人は、例えばアメリカにおいて、少なくとも黒人と先住民に対しては直接的な負担を伴って補償を行うべきであると私は考える。
その考えで言えば、ビル・クリントンは彼の社会的属性が白人である以上、負担を免れ得ないものだと考える。
大航海時代以来、人類の混血は進んでいて、例えば英国王室にも黒人の血が流れているとする説もある(確定説ではない)。
ジョージ3世妃のシャーロット王妃は自身はドイツ出身であるが、先祖をたどればポルトガル王室の血統に行き着き、それを通して黒人の血統が流入しているとする主張がある。
肖像を見れば確かに黒人風の顔立ちではある。
シャーロット王妃の四男の長女がヴィクトリア女王であり、ヴィクトリア女王の孫の孫がエリザベス2世女王であるのだから、仮にシャーロット王妃が黒人の血統であれば、現王室もまたそうだということになる。
確かに英国王室に特徴的な広い鼻は、おそらくシャーロット王妃由来のものであり、それは黒人の特徴に似ている。
だがしかし仮にその説が正しかったとして、英王室が白人ではないということはない。
人種は生物的なものである以上に社会的なものだからである。
彼らもまた、これからの時代には負の意味に転じるであろう Whitemen's burden から自由ではいられない。