議会と選挙制度、私はこう考える

過去のしがらみもなく、圧力もなく、ただ、おまえの好きなように議会と選挙の制度を作って良いと言われたならば、どのようなものを作るか、考えてみた。
日本は議院内閣制の国であり、単にそれが現状の制度であるという以上に、より妥当な制度だと思うがゆえに、私は大統領制よりも議院内閣制を支持する。
議院内閣制を採った場合、議会(特に下院)は、ふたつの異なった機能を併せ持つことになる。
つまり、立法府としての機能と、行政府を作る機能である。
選挙制度をめぐる、小選挙区論者と比例代表制論者の議論が多くは噛み合わないのは、このふたつの機能が互いに異なっているということを充分に理解しておらず、そのどちらを重視するかで違いがあるからだ。
大統領制の国であれば、比例代表制の方が望ましいだろうと思う。その場合、議会には政権選択機能はないからで、純粋に立法府と見るならば、民意配分を正確に反映するに越したことはないからである。
しかし政権を選択するという意味における衆議院選挙においては、「政府」とはひとつきりなのだから、もとより小選挙区的な意味合いをおのずから持つ。
一人の首相のうち4割が民主党で6割が自民党ということはあり得ないのである。
比例代表制を採るドイツでは、長らくキリスト教民主同盟社会民主党の二大政党に、自由民主党がどちらにつくかで政権が決定されてきた。政権選択権は事実上国民にはなく、自由民主党、それも党首のゲンシャー外相に委ねられていたも同然だった。
政権選択という側面で言うならば、比例代表制は民意を蔑ろにしがちな制度である。これは、小選挙区制を「代議士(国民の代表)」として見る場合、少数党を軽視する結果をもたらすがゆえに「民主主義に反する」と言うのであれば、その対になる言い方であり、どちらにせよ、「民意」が損なわれるには違いないのである。どちらも民意を重視するがゆえに、「民意」を損なうのである。


議院内閣制を採る国において、議会が代議機能と政権選択機能を併せ持つ場合、小選挙区制と比例代表制を並立させている現在の衆議院選挙制度はその両方の要請に応えるという意味で、理想に近いものである。
仮にこれに同意する人たちの間でも、その割合を巡っては意見が異なるだろう。
前回、そして今回と総選挙では地滑り的な結果が生じた。これを常態的なものと見るか、一時的な現象と見るかだ。
ともあれ、直近の二度の選挙で、そうした結果が生じた以上、このうえ更に小選挙区の配分を増やしたところで政権選択機能を重視したとしても、有為の意味は無い。
与党300議席が与党400議席になったところで、陣笠議員が増えるだけで、政権選択の意味はまったく生じない。
であれば、少なくとも現状では、議会(下院)の持つ機能のうち代議機能をより重視すべきで、比例代表議席の削減は、そもそも制度的な目的から考えてナンセンスだ。
政権選択機能だけでなく代議機能も重視すればこそ、小選挙区比例代表並立制を採っているからである。
最低限、比例代表議席は削減しない、あるいはむしろ増やすことが求められているのであって、民主党は国家のグランドデザインから敷衍して選挙制度を考えて欲しい。


衆議院小選挙区制にするならば、参議院を(すべて)比例代表制にしようというのもこれもナンセンスな話である。
議院内閣制とは、つまりは議会と政府が一致していることに最大の目的と利益がある。
従って議院内閣制で二院制を採る場合、首班指名のみならず通常の法案審議においても、上院は極めて限定的な、それこそチェック機能程度しか与えられていないのが通例であって、議会が上下両院で意思が分裂しているのみならず、統御がとれないならば、議院内閣制を採る意味が無いからだ。
日本の国制の最大の問題点がまさにこの点であり、二院制であることではなく、参議院の権限が議院内閣制にそぐわないほど大きな点にある。
「大きすぎる参議院」を放置したうえで、(全議席比例代表制を導入した場合、参議院の多党化は避けられず、政府と議会の一致が損なわれることになる。
私は参議院については、幾つかの改革案を持っている。
参議院廃止(一院制への移行)
または、二院制を廃止しない場合は、
参議院権限の縮小(予算案否決権を廃止、法案の可否について衆議院と決が分かれた場合は法案の施行を一年または二年遅らせるにとどめる)
参議院首班指名権の廃止
地方自治体の首長、もしくは地方議会が参議院議員を選出し、非民選議会化する(都道府県知事が2名、都道府県議会が2名の参議院議員を選出し、これで188名、残る12名を医療・福祉、外交・防衛、科学技術、法律のそれぞれの専門機関が3名ずつの参議院議員を選出、合計で定数200名)


選挙制度はどのような国家制度を採るかによって理非が変わるのであり、これだけに注目して、これだけを弄っても、全体の筋が通らなくなる。
日本が議院内閣制の国であるということから敷衍して、それぞれに思考して欲しいものだ。