天皇の政治利用について

従来ルールをごり押しして、習近平・中国国家副主席と天皇陛下との面談を政府がセッティングしたことについて各方面から批判が相次いでいるが、毎度毎度で申し訳ないのだけども、その代表的な意見として、雪斎氏の論を取り上げ、反駁したいと思う。
http://sessai.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-9f8d.html

 現内閣は、自分の政治上の都合のためならば、皇室に関わるルールを曲げることにも抵抗を感じていないらしい。「政治利用ではない」という説明は、どうみてもおかしい。今回の件は、二重の意味で「異様」でえある。

昭和天皇の、天皇初となる欧州外遊の際、政府は本来、経由地に過ぎないアラスカで式典を設けることによって、「日本の天皇が始めて外遊した地はアメリカ合衆国」とし、同盟国に対して顔を立てた。それを自民党政府の「自分の政治上の都合」と見る人は滅多にいない。
ならば、日本国家にとってアメリカと並んで極めて重要な国である中国に対しても特殊な配慮がなされたとしても、それを政党のエゴイズムとみなすのは難しい。
1992年、天安門事件の余波もある時期に、批判が多々ある中、天皇の訪中を断行したのは自民党政府である。
当時の江沢民政権下の外交担当者であった銭其琛は、天皇訪中を当時の対中外交包囲網打破の打開策として位置づけていたことを後に述べている。
私自身の意見で言えば、外交活動において、天皇の政治利用云々を言うこと自体ナンセンスだと思う。何故ならば、内閣法制局や外務省の見解に従えば、天皇国家元首であり、日本は立憲君主制国家なのであって、そもそも政治的な存在だからである。
国家元首が外交上の利益のために、外国を訪問したり要人と会見するのは当たり前である。
天皇国家元首かということについて私見を言うならば、それは否である。しかし政府が出してきた見解は、天皇は外交的には国家元首であるというものであって、それは自由民主党の政府が出したものであり、現政府はそれを踏襲しているに過ぎない。
今回の件に問題があるとしても、こういう事態をもたらす余地を作ったのは自民党政権の責任である。よくもまあ、過去に自分たちがやってきたことにほうっかむりが出来るものだ。これを厚顔無恥という。

 ? 会見相手である習近平国家元首ではない。たとえ、副主席であっても、「次期国家主席」として確定しているわけではない。もし、習近平の「権力掌握」が終わっていないのであれば、このたびの会見は、皇室を習近平に肩入れさせる効果を効果を持つことになる。思いっきり、皇室を「中南海の政治」の渦の中に巻き込むような選択である。大体、米国大統領選挙の最中に、陛下がオバマとマッケインのどちらかにしかお会いにならないということになれば、どういうことになるか。簡単に想像できる話である。

習近平国家元首でないのが問題だという意味がカウンターパートナーではないという意味ならば、そもそも日米首脳会談などは出来ない。アメリカ大統領は国家元首であるのに対して、日本の首相は外交的には国家元首ではないからだ。天皇が面談する相手が国家元首に限られるということも無論あり得ない。
小泉内閣で、田中真紀子外相がアーミテージ国務副長官をカウンターパートナーではないからと言って面談を拒否したが、あれが愚かしい行為であったならば、今回の件も仮に習近平国家元首ではないからと言って、面談を断るとしたらそれは愚かしい行為である。
習近平は現役の副首席であり中国政府を代表して来日するのである。大統領選挙時にホワイトハウスとは何の関係もなかったオバマ、マケインとはまったく意味が異なる。雪斎氏の論に拠れば、現役大統領が再選を目指す大統領選挙の時期に、アメリカ大統領が来日したとしても、「次期大統領候補」でもあるアメリカ大統領と、天皇は面談をしてはならないということになりはしないか。
実際、外交は現役大統領にのみ許されたパフォーマンスであり、再選を目指す現役大統領は外交を自分の再選キャンペーンのために最大限に活用する。「次期大統領候補」でもある現役大統領が仕事をしている姿をメディアが報道するのを自分のキャンペーンの一環に組み込むのである。
それはあちらさんの国内事情であって、当方には何ら責任もなければ関知もしないことである。

 ? 「一ヵ月前告知」ルールを破って、「中国に対しては特別な便宜をl図る」という論理に皇室を巻き込んだ。優先順位を付けるというのが、政治の論理なのであれば、「中国への特別待遇」それ自体が、その論理の事例である。

天皇陛下も生身のお体だから、スケジュールは可能な限りはやめに把握されておくべきだし、どこかで制限が必要なのは確かである。だから一ヶ月ルールを破ったのは確かに好ましいことではない。しかも、今回の件については、一ヶ月ルールを守るなら、別に天皇に会わせないでもないですよと言っているので、これは中国政府の怠慢であるのは間違いない。しかし、結果的に、中国側のスケジュール調整が遅れたのは事実であり、それにどう対応するかは日本側の思惑次第である。
外交において、重要な国に便宜を図るのは当たり前であって、アメリカ合衆国モナコ公国を同列に扱うことはあり得ない。
皇室が巻き込まれたとすれば、それは外交の論理に巻き込まれたのであって、天皇国家元首という外交的なポジションにある以上、巻き込まれることがあるのも当たり前の話である。
繰り返すが憲法に明記されていないそうした地位に、外交的に天皇をまつりあげたのは、自民党政府であって、天皇の政治利用を批判するならば、天皇国家元首という地位を非難しなければならない。
不忠の臣と、国民の負託を得た政府を評すること自体、共和主義への反逆であろうが、不忠の臣を探すならば、その原因を作った自民党であろう。