英国新政権発足について、感想

対ドイツ戦に勝利したチャーチルは必勝の確信と共に1945年の総選挙に臨んだが、結果は保守党惨敗となり、アトリーが労働党政権を発足させることになった。そのため、戦後の国際秩序の構築期に英国の外交政策は後手に回ることを余儀なくされた。
1945年5月までチャーチルが率いていたのが挙国一致内閣である。戦争遂行のために議会政党を網羅する形で連立政権が形成され、その経験の中で、労働党も経験と信用を蓄積し、アトリー政権につながった。
先日の英国総選挙の結果、発足したキャメロン政権はそれ以来、65年ぶりとなる連立政権である。
もはや単純小選挙区制では、国民のニーズを反映できないことが浮き彫りになった選挙結果だった。
自由民主党労働党では獲得票数の割合では7%程度の差に過ぎなかったが、獲得議席数では200議席もの差が開いてしまった。
二大政党に有利な選挙制度の欠点が、如実に示されてしまった。
過半数を制した政党が無い状態で、労働党のブラウン前首相には、?少数単独与党として政権に留まる、?連立政権を構築して政権に留まる、選択肢もあったが、結果的には一番常識的なライン、最大政党となった保守党が首相を出し、自民党と連立を構築する形で落ち着いた。
保守党が信任を得たとは言えないまでも、労働党が信任を失ったのは明白なので、労働党は政府から去るべきであろうし、そうなったのは英国の民主主義のためには良かった。
さて、連立合意として、副首相となったクレッグ自民党党首はあらかじめ大きな成果を得た。それは選択投票制の導入の合意を獲得できたことである。
誤解の無いように言っておくが、選択投票制も小選挙区制であるには違いない。従って、死票が出やすいという小選挙制度の最大の欠点自体は無くならない。ただし、第三党である自由民主党にとっては、有利になる、有利になる可能性がある制度である。
単純小選挙区制の下では、過半数を制する候補がいなくても、最多票獲得者が当選する。もし2位3位連合が出来れば、最多票獲得者が変更される可能性があるとしても、これまでの英国ではその可能性は黙殺されてきた。
それは日本における小選挙区制(両院の小選挙区制選挙や首長選挙など)でも同じだが、他国では小選挙区制を採用しているとしても、過半数を制した候補がいない場合、決選投票を後日行うなどの対策を施している場合が多い。
AV(選択投票制)もそうした対策のひとつであって、あらかじめ有権者は本命の候補と、次善の候補の2名を投票の際に選択する。過半数を制した候補者がいない場合、誰かが過半数に達するまで、最下位の得票者から消去されていき、その分の票は「次善の候補」に振り分けられる。
だから例えば選挙区での調整が上手くいかず、民主党系の候補が2名立候補してしまい、自民党の候補が漁夫の利を得て当選するというような事態を防げるわけである。
例えば、自民党系候補が40%、民主党系候補Aが30%、民主党系候補Bが20%を得票したとして、何ら操作を加えなければ、有権者のうちの4割からし自民党は支持を得ていないのに、5割の支持を得ている民主党を差し置いて議席を獲得してしまう。選択投票制があれば、民主党系候補Bが脱落して、順当に行けばその票は民主党系候補Aに上乗せされて民主党系候補Aが当選する。
この制度が、第三党以下全体ではなく、特に第三党に有利なのは、保守党支持者が労働党を、労働党支持者が保守党を支持することは考えにくいからである。
自由民主党のコアの支持者は、保守党支持者や労働党支持者よりは少ないが、その両者から自由民主党はより「受け入れやすい次善の候補」である。
自由民主党が本当に多様な民意の議席への反映を望むのであれば、解は比例代表制、少なくともその部分的な導入でしかあり得ないが、選択投票制は極めて党利的な選択であると評さざるを得ない。
この制度が導入されれば、英国は多党政治化するのではなく、三大政党政治化するだろう。
この、三大政党政治は、第三党が極めて強力なキャスティングボートを握るという点で、民意の反映がより困難になる恐れが強い。
一番望ましいのは部分的に比例代表制を導入することだろう。