中国と北朝鮮

先日の中国政府の「重大発表」は韓朝両国の自制を求めるという何の変哲もない内容だったが、これをどう読むべきなのかは案外難しい。
北朝鮮への明白な支持を行わなかったこともあり、中国が現在の状況、およびこれに至った北朝鮮指導部の強硬姿勢を十分にコントロールできていないのは明らかだが、北朝鮮への批判も行わなかったことで、軍事的エスカレーションへの対抗措置をいまだに保持しているとみるべきだろう。
当たり前のことだが、現在の措置は将来の望むべき外交的・軍事的環境への一貫としてなされるものであって、中国政府が北朝鮮をどうしたいのか、将来的に何が可能だとみているのか、それらはすべて現在の中国の「曖昧な」姿勢の中に表れている。
「曖昧」とは言え、中国の要求は以前からわりあいはっきりしているのであり、朝鮮半島の非核化、中立化ということであって、統一朝鮮半島国家そのものを敵視するものではない。
中国の選択は「なにがベストか」ではなく「なにがまだしもマシなのか」という視点から構築されており、その条件の中で、北朝鮮というカードを保持しているに過ぎず、北朝鮮はそれを見越したうえで、「瀬戸際戦略」を中国に対しても行っている。
北朝鮮核兵器保有や米韓への強硬姿勢は、現状維持を破壊しかねないという意味で中国の利益にならない。仮に北朝鮮が実際に運用可能な核兵器保有したとして、それは現状維持を破壊しかねないという意味では「より悪い選択」であるが、なおも米韓との対立構造を朝鮮半島に構築できるという意味では「最悪」ではない。
中国が現状において米韓による軍事的エスカレーションを黙認する余地は万に一つもない。
その意味において実際には軍事的エスカレーションは不可能である。
韓国政府がどれほど強硬な姿勢を打ち出そうとも、実際には言葉以上のものではないのであり、それはまず第一には統一を実現しようという韓国側の明確な意思の欠落に由来する。朝鮮半島をめぐる外交環境の状況分析は当然、韓国政府はしているはずであり、もし明確な統一意思があるならば、そのための外交環境の整備に何よりもまず邁進しているはずであり、それが欠落しているならば、周辺諸国がどうこうできる余地はほとんどない。
つまり韓国はこうした軍事的暴発を含めた現状維持を当面は望んでいるのであって、韓国は状況の被害者ではなく加害者である(それは北朝鮮も同様である)。韓国は民主主義国家なので、政府の選択は究極的には国民の意思であって、韓国国民は、ときおり発生するこうした軍事的緊張の犠牲者や、北朝鮮の同胞国民の犠牲において、北朝鮮政府と共犯関係を結んでいる。
極めてマキアベッリ的なこうした当座策が、冷戦後から起点をおくとしてもすでに20年、維持されていて、その間に、韓国は経済発展を遂げた。
国民国家としても、民族的な原理原則から言っても、韓国と言う国にはどこか根本的な規範が欠落しているのではないかと感じる。
問題はこの当座策がいつまで維持できるかである。脱北者は相変わらず途絶えることはないが、目立った反政府活動は北朝鮮外部においてさえ見当たらない。北朝鮮のありかたを思えば他国ではほとんど考えにくい状況であるが、その状況がすでに20年維持されていることを思えば、その状況の求心力の強さを無視することはできない。
そうした諸々を思えば、私は朝鮮半島有事が今後近いうちに発生するとはまったく見ていないし、今回の件が軍事的エスカレーションに発展する余地はほとんどないと思う。