ウィリアム王子の公爵位

ついでに英王室ネタをもうひとつ。
今月末に英国のウィリアム王子の結婚が予定されているが、未だに発表になっていないことがある。それはウィリアム王子が婚姻後、名乗るであろう公爵位の名称だ。
国王の息子ならびに皇太子の息子は、既にウェールズ公に叙せられている場合を除いて、通常は成人後、王族公爵に叙せられる。近年はこの、王族公爵に叙すタイミングが後ろにずれ込む傾向があって、結婚を機に叙せられることが多い。どういう立場の人にどういう爵位が叙せられるか、だいたいの傾向はあるが、必ずしもそうなるとは限らない。
例えばヨーク公は王の次男に叙される傾向があるが、ほかに存命しているヨーク公がいればもちろん避けられるわけである。現在のヨーク公アンドリュー王子はエリザベス女王の次男であるから定石どおりだが、例えばエリザベス女王が没し、チャールズ皇太子が即位した後には、ハリー王子が王の次男になるわけである。その状況で、ハリー王子が婚姻の際にヨーク公爵位に叙されるかといえばそうはならない。アンドリュー王子が先任者として既にいるからである。
去年の年末に、この王族公爵位問題について、ウィリアム王子は自らを王族公爵に叙さないように依頼したと言われている。
Prince William asks the Queen not to make him a duke - The Telegraph
要点を言えば、「自分は生まれてからこのかた、ずっとウィリアム王子と呼ばれてきたのでいまさら別の名前で呼ばれるのは嫌だ」「結婚相手のキャサリン嬢については、結婚後はキャサリン王女と呼ばれればいい」とのことである。
ここでケイト・ミドルトン嬢についてわざわざ言及しているのは、ウィリアム王子当人をウィリアム王子と呼ぶのは構わないとしても、その配偶者となるキャサリン(ケイト)妃をどう呼ぶのかという問題が生じるからだ。仮に、ウィリアム王子に何らかの爵位が与えられなかった場合、キャサリン妃の称号は以下のようになる。
HRH The Princess William of Wales, Catherine(ウェールズ公息ウィリアム王子妃キャサリン
省略して言うならば、
HRH The Princess William of Wales, Catherine
ウィリアム王子妃、つまり「プリンセス・ウィリアム」になる。原則的に、「プリンセス・キャサリン」にはならない。もちろん、この称号の場合、メディア等での慣例としては、
HRH The Princess William of Wales, Catherine
称号の中から恣意的に二語を抜き出して「プリンセス・キャサリン」と言えなくもない。
HRH The Princess of Wales, Diana
が「プリンセス・ダイアナ」になったのと同じである。しかしそれは、言ってみれば綽名のようなものであって、称号ではない。よりフォーマルな場面では、ウィリアム王子の意向に沿えば、キャサリン妃は「プリンセス・ウィリアム」としか呼ばれようがなく、奇異というか、気の毒だというのが普通の感覚だろう。
この意向について、どうなったのか、続報がなく、なおかつ最近ではウィリアム王子に叙される爵位の称号が取りざたされていることから、女王によって却下されたと見て良いだろう。
現代人の通例からすれば、こうした称号の規範にうとい人が大半だろうが、称号の世界の塊とも言える王室中枢の人であっても、興味がなければシンプルな原則も知らないという、ウィリアム王子のこの意向はその一例ではないだろうか。
蔵に数々の書画骨董の名品を受け継ぎながら、興味がないためにただただ死蔵させているだけの旧家の当主のようなものであって、ウィリアム王子はもともとマニアックな歴史知識に耽溺するようなタイプではないため、このような筋違いの意向を表明したのだろう。


ウィリアム王子は王位継承の直系に位置しているが、その地位は皇太子の息子であるに過ぎない。英王室は当初、日本の両陛下に結婚の招待状を出す意向を示し、皇太子殿下が出席される意向だったが、カウンターパートナーという点では、それでもなお、格が違う。英国がこれまで日本の皇室の慶弔事にカウンターパートナーを出してきたならばともかく、少なくとも今上の即位の儀の時にはエリザベス女王の訪日があってしかるべきだったが、チャールズ皇太子で済ませていることから、経緯から言っても、両陛下はもちろん、皇太子殿下ご夫妻さえも派遣するにはあたらない。
皇太子殿下は結局、震災被害を考慮して、結婚式への出席を見送られたが、安売りをしないという点ではそれでよかったのだと思う。


さて、ウィリアム王子が叙せられるだろう王族公爵位は何になるのだろうか。君主の直系の孫が、結婚年齢になるまで君主が存命だという例はそれほど多くはなく、前例から言えば、ヴィクトリア女王の孫で、当時のエドワード皇太子の長男であったアルバート王子がクラレンス公(正確にはクラレンス・アンド・アヴォンデイル公)に叙されたことがある。彼には切り裂きジャック事件の真犯人ではないかとの都市伝説があり、順当にいけばエドワード7世の没後に王位を継ぐはずだった。メアリー・オヴ・テックと婚約中に急逝したため、王位継承のラインとメアリーとの婚約・結婚は弟のヨーク公ジョージ(後のジョージ5世)が引き継いだ。
君主の直系の孫で王族公爵に叙せられる人物と言う点では、アルバート王子とウィリアム王子は立場が同じである。現在たまたまクラレンス公位は空位でもあることから、おそらくクラレンス公に叙せられるのではないかと思われる。
ただ、別の報道では、ケンブリッジ公に内定済みという話もあって、まだはっきりとしない。