中国の人口動態と今後

先日、世界人口が70億人を突破したことで、人口増加問題がまたにわかに語られているが、この10年で世界的に出生率の急速な低下が見られ、世界平均ではほぼ人口置換水準に近い出生率2.47まで低下している。これまでの蓄積があるので、少なくともこの半世紀、おそらく1世紀は人口は増加するだろうが、後は世界的な規模で少子高齢化と急速な人口減少社会に突入することになる。
中国も、例外ではない。
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世銀のこちらの統計では中国の2009年時点での出生率は1.61である。むろん、人口置換水準を大きく下回っている。文革期の人口増大政策の時期(1967年)に中国は出生率5.91を記録している。これは当時としても異常な高さで、政策的な圧力の結果であり、文革の鎮静化に伴い出生率は年々漸減し、四人組失脚の頃には出生率3.0程度にまで低下している。一人っ子政策が始まるのは1979年からだが、その年にはすでに出生率が2.74で、人口置換水準に近づいている。このグラフを見ていると、果たして人口抑制政策として、一人っ子政策が必要であったのかどうか、疑問が生じる。政治状況の安定化に伴い、より自然な形で安定化が可能だったのではないか。もちろん、その場合は、全体の規模の拡大は避けられなかっただろうが。
ただ、一人っ子政策を採ったものの、80年代はおおむね2.4程度で推移していて、これが2.0を割るのは1994年のことだから政策の開始年からすれば比較的「最近」のことだ。
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こちらがwikipediaに載っている2009年の中国のピラミッドだ。これは若干簡略化されていて、実際には50台後半に前後に比較して目立った落ち込みがある。これは毛沢東大躍進政策の影響で、多数の餓死者が出た結果である。いわゆる文革期出生の世代(現在40代)が突出して多く、その子の世代、つまり現在20代がそれとほぼ同じ厚みを持っていることがわかる。現在の20代が生まれた80年代は、ほぼ親の世代の人口置換水準の出生率であったので、一人っ子政策の影響がこの世代にはまだそれほど強く及んでいない。その後、90年代とゼロ年代を通して、出生率の「劇的な」低下が発生したのであって、一人っ子政策の影響が79年からただちに生じたわけではない。
現在の中国は、「豊富な労働世代が過小な非労働世代を支えている」状態であって、その差が人口動態的な強さ、国際競争力となっている。ただしこれが今後、幾つかの段階的な「少子高齢化危機」をもたらすことになるのも、すでに決定している。文革期を第一次ベビーブーム期とすれば、その第一次ベビーブーム世代が高齢化するのは20年後である。しかしこの時点では、その子の世代である第二次ベビーブーム世代が相当な厚みをもって労働人口として存在していて、その負担を吸収することは不可能ではないだろう。だが、既に第二次ベビーブーム世代が親となるべき時期に差し掛かっているのに、出生率は人口置換水準を大きく下回り、さらに低下する様相を見せている。
第二次ベビーブーム世代が高齢化する40年後、つまり2050年頃には、中国の社会保障は破綻する見込みが非常に強い。その時点で中国は文字通り老人の国になり、すべての面において競争力の劇的な低下が予想される。
そろそろ、一人っ子政策を緩和するというか、逆に出生率の向上を働きかけるべき時期に中国は来ているが、現在は第二次ベビーブーム世代が圧倒的なボリュームをもって、各公的部門を通過している現状であり、この世代に十分に中国政府は対応しきれていない。グローバリズムやIT化は、中国でさえ労働省力化を発生させていて、この世代の失業率の高さや競争の激化はそれ自体が出生率を押し下げる結果を招いている。親世代であるべき第二次ベビーブーム世代が自らの生存とキャリアのために資源投資をせざるを得ないので、結果的に次世代の資源を奪取している形になっている。第三次ベビーブームは発生しないか、するとしてもごく小規模なものにとどまるだろう。
ここから導き出される結論としては、中国の現在のような成長と栄華は長くても半世紀であるということだ。