終わりゆく江

秀頼が成人して以後の、大河ドラマ「江」はかなり持ち直しているように見える。秀頼と家康の二条城会見、大坂の陣、そして最終回をわずか4回で描かなければならないという、一瞬の余分も許されないハードスケジュールぶりが、かえっていい結果をもたらしているようだ。秀吉と茶々のほれたはれた話で10話近く浪費するからこんなことになるのだ。大坂の陣ももっと丁寧に描けば、よかったものを。
とは言っても、大坂の陣については、さすがに事実上、淀が主役であるだけに、歴代の大河ドラマでもわりあい丁寧に描いている方だろう。
私は大河ドラマ「江」は歴代最低の出来だと思うし、脚本家は素人以下のレベルだと思う。脚本のお粗末さに加えて、この作品が最低と呼ばれるのに相応しいのは、俳優のパフォーマンスも出来が悪いからだ。「天地人」のような失敗作、「利家とまつ」のような制作コンセプトがどうかと思うような作品でも、私は俳優はなるべく擁護してきた。実際、大河ドラマは俳優にとっては紅白のようなもので、それ相応の実力がある人たちが、全力を尽くして演じているからである。
しかし、大河ドラマ「江」については、主役の江を演じた上野樹里さんも、まったくの被害者とみなすことは難しく、いくらあの最低の脚本があったとはいえ、役にまったく説得力を与えられなかった彼女の稚拙な演技力も批判されてしかるべきだろう。彼女の眉間にしわが残ってしまうのではないかと心配するほど、彼女はいつもしかめ面をしていて、不平不満ばかりを口にしている。こんなに魅力に欠ける主人公は大河ドラマでも初めてではないか。特に前年の大河ドラマで主人公の龍馬を演じた福山雅治さんが、役ともども、自身の魅力を最大限に見せつけていただけに、所属事務所も偶然に同じなのだが、はるかに見劣りがするというしかない。
上野さんが演じる江の不平顔は、大河ドラマ篤姫」で主役を演じた宮崎あおいさん*1を思い出させたから、「江」と「篤姫」両方を手掛けた田淵某女の指示ではあったのだろうが、宮崎さんは次第に役ともどもに大きくなっていったから、篤姫の大きさに江が叶わなかったのは上野さんの責任でもある。
今までの大河ドラマでは、どれほど稚拙な作品でも、さすがにこの俳優の演技はいいと言えるような、抜け出てくるような俳優はいたものだった。たとえば、「天地人」は最低な作品だったが、「天地人」で秀吉を演じた笹野高史さん、北政所を演じた富司純子さんはさすがにそのキャリアを見せつけてくれる演技だった。もっともベテランであれば誰でも上手いというわけではなく、大根役者はベテランになっても大根役者である。「天地人」で徳川家康を演じた松方弘樹さんのように。
残念ながら、大河ドラマ「江」では、そのような、さすがベテランと言えるような演技力を見せてくれた人はほとんどいなかった。あの演技の怪物とも言える大竹しのぶさんですら、かろうじて破綻なくまとめられたという程度であって、徳川家康など、余りにもキャラクターが場面ごとで統一性がないものだから、北大路欣也さんですら、まとめきれていなかった。もし今年の家康を松方弘樹さんが演じていたらどれほど無残なことになっていたか、恐ろしい限りである。
唯一、演技が冴えわたったと言えるのは、大坂の陣へと至るエピソードでの淀を演じた宮沢りえさんであり、秀頼を演じた太賀さんである。秀頼はいろんな人がこれまでも演じてきたが、太賀さんの秀頼は白眉であろう。
島田紳助の引退以来、芸能界と暴力団の癒着を排そうとする動きが強まっていて、太賀さんの父親の某俳優は、おそらくまっさきにパージされる人だろう(そう言えばその俳優もかつて鈴木保奈美さんと共演していたが)。太賀さんは、貴重な、実力のある俳優なので、父親とは距離を置かれることをお勧めする。

*1:ミヤザキのザキの字は異体字だが、文字化けするので崎の字で代用した