共和党の衰退は本当か

米国も同じ「無能議員が国を滅ぼす」 - Sankei Web
共和党が長期衰退傾向にあるというこの分析は、珍しいものではない。先日の2012米大統領選挙後にも、アメリカのマスメディアのコラムや、有名ブロガーたちもそのような論をたてていた。私はそれを読んで、「本当かな?」と疑問に思った。大統領選挙に限って言えば、2012年の状況は2008年よりも民主党にとっては悪化していて、むしろ今後の民主党の足腰の弱さを感じたからである。
そもそも2012年は現職大統領の再選年であり、通常は現職大統領が有利になるものである。2004年のブッシュ、1996年のクリントン1984年のレーガンはどれも4年前よりも選挙人獲得人数も獲得総数表においても支持を伸ばしている。
例外なのは1992年に再選を目指したブッシュ(父)であるが、彼の場合はそもそも例外的に12年間続いた長期共和党政権への飽き、更に4年間共和党政権が続いた場合の民主党弱体化の危機感、ロス・ペローが第三党として相当な支持を獲得し、共和党の地盤を食ったこと、そして湾岸戦争後の圧倒的な支持を背景にして、ブッシュが従来の盲目的なイスラエル支持の外交姿勢を改めて、より中立的、現実主義的な中東政策にかじを切ろうとしたことに対するユダヤ人社会の猛反発等々の特殊要因があった。
しかしオバマの場合は、2008年よりも2012年の選挙情勢の方が悪化している。これは通例から見ればかなり異常なことだ。前回の大統領選挙ではオバマが獲得したノースカロライナ州インディアナ州は今回はロムニーが獲得している。ロムニーがマケインと比較してさえ、モルモン教徒という異端性が強い出自、リベラル色が強いマサチューセッツ州の出身であるということを踏まえれば、共和党候補としては相当に「弱い」候補であったことを考えれば、オバマはかなり苦戦を強いられたと言ってよい。
この状況下でどうして「共和党の衰退論」が出てくるのか理解に苦しむ。
単にオバマ個人の選挙の問題ではない。それこそ地盤の変化も起きている。
2008年には選挙人総数で31でテキサス州の34に次ぐ第3位の大州であったニューヨーク州であるが、今回、テキサス州は人数を38に伸ばしたのに対してニューヨーク州は29に減らし、同数でフロリダ州に並んだ。次の大統領選挙では、フロリダに抜かれるのは確実である。これは象徴的な事例であって、従来、民主党の地盤であった北部、そして五大湖周辺の工業地帯はいずれも人口の絶対的・相対的な減少に見舞われており、選挙における影響力を地滑り的に低下させている。
対して人口が増加しているのはテキサス州周辺のサンベルト地域であり、そこは共和党の地盤である。注目すべきはアリゾナ州で、先端産業が流入するにつれ急成長を遂げているが、ここもまた、西部の中では、共和党が強い州である。
ヒスパニックが増加しているから、民主党に有利というのは本当なのだろうか。こうした議論はヒスパニックにも保守派は根強く存在している、むしろ価値観的には保守派が強いエスニックグループであるという事実を黙殺している。ヒスパニックが総じてリベラル寄りになるなら、メキシコに保守政党が存在するはずがないではないか。
ヒスパニックの流入がリベラルの強化をもたらした例は今のところ、カリフォルニアにだけ言えることであって、そもそもメキシコと一番長い国境を接しているのはテキサス州であり、テキサス州にもヒスパニックは割合的にもかなり多く存在し、なおかつテキサス州は圧倒的に共和党の地盤であることを踏まえれば、ヒスパニック=リベラルは成り立たないと言わざるを得ない。
仮に現在、経済的な要請からリベラルを支持する傾向があるとしても、白人が少数になるにつれヒスパニックがエスニシティを維持してゆく必要もなくなるのだから、個々人の判断が投票行動において判断されやすくなり、彼らは総じて自由主義的な価値判断においては、保守的な傾向が強いのだから、経済的な事情から民主党を支持していたとしてもそれが今後維持される可能性は非常に低い。80年代に日系人社会が共和党寄りに傾いたのと同じことである。
フロリダのヒスパニック社会は比較的裕福なキューバ人社会が中心であるので、彼らはむしろ共和党支持に傾いている。
人口の南下現象について言うなら、よりリベラルな北部人が南下することによって、従来、共和党の地盤であった州に民主党が食い込む可能性も一方にある。事実、フロリダ州ノースカロライナ州は急成長を遂げるにつれて、北部人口を吸収し、共和党の地盤とはもはや言えず、状況しだいによって揺れ動く重点州になりつつある。ただし同様の傾向は、民主党が強かったオハイオ州インディアナ州でも見られる(その理由はまた違った分析が必要だろうが主題ではないのでここでは触れない)。
ただし、この場合、アメリカ大統領選挙の、州の選挙人を勝者が総取りするという特殊な選挙制度のために、むしろ共和党有利に働くと予想される。極端なモデルで言えば、原住民すべてが共和党支持の州で選挙人が10いるとしよう。この州に選挙人9の分だけの人口が北部から流入したとして、その新住民がすべて民主党支持とする。その場合、選挙人総数は10から19へとほぼ倍増するが、共和党支持者の方が多いため、民主党の選挙人9が共和党に進上されることになる。「小選挙区」の怖さである。
2012年の大統領選挙の結果、そしてこうした構造の分析を踏まえれば、少なくとも大統領選挙においては民主党はむしろ不利になってきていると見るのが私見であり、妥当な見方であると思う。