「バッテリー」はクソ映画か

僕の従姉妹(女ね)が高校野球が大好きなんですよ。どのくらい好きかと言ったら、高校野球のシーズンになったら有給とりまくって、地区大会の試合にも足を運ぶ。例年、初戦敗退の公立高校のレギュラーまで知ってたりして。感心するというより怖いですよ。
で、僕が高校に入ろうかという頃、しきりに野球やれって言うんですよね。野球なんてやったことないっちゅうに。団体競技は大嫌いだっちゅうに。僕より年下の従兄弟はまんまと口車に乗せられて野球やってましたね。
そいつの親だってろくろく試合も見に行ってないのに、なぜあなたが?と言われるくらい、その従姉妹は応援に行ってたらしいです(応援される従兄弟は迷惑がっていたらしいです)。
で、もちろんその従姉妹は野球には詳しいですが、プロ野球メジャーリーグには全然関心がないんです。要は高校野球が好きなんですね。野球そのものが好きというより。
熱血とかひたむきさとか、「ケッ!」て思わず言っちゃうでしょ、extra innings の正しい読者の皆さんは。ええ、当然、僕も言っちゃいます。ご一緒にどうぞ、「ケッ!」。
彼女はその「ケッ!」が好きなんですよね。あさのあつこさんもそうなんじゃなかと思います。


「バッテリー」は野球小説ってことになるんだろうけど、チームのナインが誰かも分かりません。フォーカスがあてられるのはあくまでバッテリーだけ。投手と捕手ですね。
ホモっぽいということでは同じく定評がある漫画の「おおきく振りかぶって」と比較するとこの差は歴然です。「おお振り」は野球を描いていますから。
あさのあつこさんには「THE MANZAI」なる花王名人劇場みたいな作品もありますが、彼女が描きたいのは要はふたりの人間の化学反応なんですね。野球そのものに主眼があるわけじゃないという意味では、従来型の伝統的な野球漫画と同じです。
野球のゲームメイキング=作品のドラマツルギーとなっている作品は「おおきく振りかぶって」が最初じゃないでしょうか。


こういうことを書くと、あさのあつこさんの作品にオフェンシヴであるように思われるかも知れませんが、決してそうではありません。「バッテリー」も「THE MANZAI」もわりあい好きな作品です。
で、2007年ですか、TBSが「バッテリー」を映画化した際には劇場に見に行きました。
まずまず満足しました。
なんでまた今頃になって、この映画を語るのかと言えば、
伊集院光さんおすすめ映画「バッテリー」 - ラジオ映画館
伊集院光 「TBSの作る映画は、ほぼクソ」 - 世界は数字で出来ている
を読んだからです。
同じラジオを受けて書かれた記事なのに見方が全然違いますね。伊集院さんは言葉に伏線があるというか、ダブルミーニングっぽい言い方をする人なので、たぶん「世界は数字で出来ている」さんの理解の方が妥当なようにも思います。
ただ、5点中3点だと伊集院さんも言っているように、そんなに悪い出来ではないんですよね。このレベルまでクソと見なしてしまうと、人生もよほど生き難いというものです。
僕は「子役が野球経験者だから野球に感情がしやすい」という褒め言葉はすごくよく分かりますよ。
主役の林遣都さんが、ランニングするのを俯瞰で撮影する場面があるんですが、それがもう速い速い。一瞬たりとも気を抜くことなく上を狙っているピッチャーの走りなんですよ。
弟の病気のことや母親との確執(とその和解)を相当急ぎ足でまとめたところや、対戦チームの先輩選手がどう見ても中学生には見えない点を差し引いても、林さん、というより原田巧の走りを見るだけでも値段分の価値はある映画でした。
それ以外にも見所がいくつかあって、岡山の景色が美しいところ。
日本の風景を撮って美しい絵が撮れる映画監督にはごちゃごちゃ言わずに、丸を差し上げたいですね、僕は。
あと、菅原文太さんの演技ですね。文句なく、当代随一の名優です。
これだけ見所があって、クソってこたあないでしょう。「TBSが作る映画はほぼクソ」かも知れませんが、これは稀な「クソではない」映画だと思います。