よりによって、という話

「桜田門外の変」の因縁が争点? 滋賀・彦根市長選 - 朝日新聞デジタル
彦根市長選挙に大老井伊直弼を暗殺した(しかも直接殺傷した)有村次左衛門の子孫が立候補していて、その出自について現職でもある対立候補が批判しているという話。
あれれ?と思ったのは年齢的に言って、有村次左衛門に子孫なんていたのだろうかと疑問に思ったのだけれども、当該立候補者・有村国知氏の実姉にあたる自民党参議院議員有村治子氏のウィキペディアの項目を見れば、有村兄弟の末弟の國彦の子孫だそうで、その立場の人を、有村次左衛門の子孫と言えるならば、有村兄弟の長兄である海江田信義有村俊斎)の子孫とも言えるわけである。
有村次左衛門は公憤から井伊大老に手をかけたが、有村俊斎は私憤から大村益次郎を殺害したと状況証拠的には濃厚に疑われている。幕府側・官軍側、どちらから見ても許すべからざる大罪人の一族であるが、薩摩の身びいきのせいで有村俊斎の罪はうやむやになってしまった。赤報隊事件などと並ぶ幕末維新暗黒史に刻まれる事件であり、桜田門外の変大村益次郎暗殺事件というふたつの暗い事件の直接的な下手人として有村家は関わっている。
それも幕末のことならば遠い過去の話であるし、そもそも直接の子孫でもないのに、わざわざ有村次左衛門や俊斎の子孫を名乗るのもどうかと思うが(そもそも名乗って名誉というほどの先祖でもない)、選挙でいちいちそれをもちだす対立候補というのもいったいどういう了見だろうか。
ただし、彦根ひこにゃんのモチーフ(赤備えの井伊直政)しかり、井伊家の直系が長らく市長を務めたということもしかり、全国の地方自治体の中でも特に旧主である井伊家との結びつきが強い地域である。有村国知氏の出自が選挙に影響を与えないとは言い切れない。まあ、よりによって、という話である。単に薩摩や水戸出身の人だと言うならば市民も別に気にもしないだろうが、さすがに井伊直弼を殺害した実行犯の「子孫」というならば、ちょっとした呑み込み難さがあろう。例えば仮に外務省に加藤清正伊藤博文の子孫という人がいて、その人を敢えて駐韓大使に充てるかという話である。祖父も首相、父は外務大臣という人が首相になっているこの国で、門地が人々の判断にまったく影響を与えないということはない。それは負の遺産についても同様であろう。
現職の獅山向洋が持ち出した有村氏の出自という手法は禁じ手に近いが、たぶん有効な攻撃だろう。有村氏の当選はたぶん難しいが、獅山向洋氏の今回のやり方も、幕末期の有村兄弟のやり方に似て陰惨で陰険である。見ている人はみているはずだと信じる。