敗者の視点

来年の大河ドラマ「八重の桜」に期待している。
正直言って主演の綾瀬はるかさんは新島八重のイメージではないのだが(宮粼あおいさんならぴったりだが)、そこは女優さんのことだから、それなりに消化するのだろう。それに、新島八重は項目だけを追えば、やたらアグレッシヴな、系統的には伊藤野枝とか管野スガとか、ああいう「個人的な信念の人」のようにも見えるのだが、彼女の土台には会津の教育があるわけで、本質的には保守的な人ではないだろうか。エキセントリックさを撫でるというか、抑えて実態に近い造形を浮かび上がらせるには、綾瀬はるかさんは適任かも知れない。
何度か書いたことがあるかも知れないが、会津は自分にとっては、暮らしの芸術品のような場所で、何回何十回と訪れているし、隠居すればそこで暮らしたいと思っている。
戊辰戦争会津戦争で最大の敗者となることを強いられた会津だが、今回、これまで背景的にしか大河では描かれなかった会津戦争を正面から描くことから(正面から描きすぎれば余りにも悲惨すぎて、お茶の間に放送するには不向きではないのかという懸念もあるのだが)、敗者の側から幕末維新を捉えるとNHKは強調している。
それを聞いて、さて?と思った。
大河ドラマでは幕末維新を扱った作品は多いが、その主人公は誰かと言う点から幕府側・官軍側に分けると、
1.花の生涯井伊直弼)(幕府側)
2.三姉妹(幕臣の娘)(幕府側)
3.竜馬がゆく坂本竜馬)(官軍側)
4.勝海舟勝海舟)(幕府側)
5.花神大村益次郎)(官軍側)
6.獅子の時代(元会津藩士)(幕府側)
7.翔ぶが如く西郷隆盛大久保利通)(官軍側)
8.徳川慶喜徳川慶喜)(幕府側)
9.新撰組!近藤勇)(幕府側)
10.篤姫天璋院)(幕府側)
11.龍馬伝坂本竜馬)(官軍側)
12.八重の桜(新島八重)(幕府側)
になる。むしろ幕軍側の視点からの作品が多い。
ただ、慶喜篤姫は、自分自身が戦ったり拷問されたり、戦死しても埋葬もされなかったりしたわけではないので、敗者の視点と言っても生ぬるい。
第二次大戦での苦悩を描くと言っても、「どうしよう、このままじゃ日本は滅びるんじゃないか」と悶々とする高松宮と、南洋で生死の境を何度もさまよう水木しげるとの間に距離があるように、同じ幕軍側の視点でも「篤姫」と「八重の桜」の間には距離がある。
新撰組も、近藤にしても土方にしても最期は悲惨と言えば悲惨だが、当人が選んだ道の結果ではあるし、それなりのことをやってきてもいるので、悲劇性は、そんなには感じないのだが、会津の場合はね、ちょっと言葉を失うものがある。
維新の土台にどれほどの悲惨があったかと言うだけではなくて、篤姫や土方の「矜持」を支えたもの、それもまた現実には会津の犠牲があったわけで、白虎隊の少年たちのむくろを前にして言えば、僕はむしろ、官軍側の権力者たちと、篤姫慶喜、土方、それに松平容保らは同じ側の、向こう側に位置しているように見える。
その視点を持っているのはたぶん、西郷頼母で、この役を演じる西田敏行さん次第で前半の作品の評価は決まるように思う。