鎌倉時代版アウトレイジ~悪い奴しかいない

来年の大河ドラマ渋沢栄一を扱う「青天を衝け」だが、再来年は三谷幸喜脚本で「鎌倉殿の13人」が放送されることが発表された。

平安時代末期から鎌倉時代初期、いわゆる源平争覇の時代は、これまで「源義経」「新・平家物語」「草燃える」「炎立つ(第三部)」「義経」「平清盛」と6作品、放送されている。幕末、戦国時代に並んで、取り上げられやすい時代だと言えるだろう。

 

脚本の三谷氏は大河ドラマフリークとしても知られていて「新選組!」「真田丸」に続く三本目の執筆になる。過去に大河で三作品を担当するのは、ジェームズ三木、橋田壽賀子以来だが、四作品を担当した中島丈博がいるので、氏には今後とも担当していただきたい。

三谷氏は自身が大河ドラマ好きなだけあって、大河ドラマファンのつぼを外さない、安心できる脚本をお書きになるのだが、私の好みとしてはコメディ色はもう少し薄めてもいいんじゃないかなとは感じる。

ただ、今回の北条義時を扱う大河も、おそらくは三谷氏主導で題材を選んだのではないかと思う。私も大好物である。ドンピシャと言うか、以前、三谷氏が「草燃える」をリスペクトして語っていたのを何かの雑誌で読んだか、TVで見るかした記憶があるので、私も今選ぶのであれば一番好きな大河ドラマは「草燃える」なので、同好の士が書く、北条義時、楽しみでしかない。

私は中島丈博の歴史ドラマを描く手腕を非常に買っていて、彼の書いた大河ドラマはどれも好きだ。中でも「草燃える」は、歴史ドラマの面白さが濃縮されたようなドラマだ。

これは何かで読んだ記憶では「コメディとして書く」と言う意図があったらしいのだが、実際、頼朝を演じた石坂浩二のひょうひょうとした演技や、武田鉄矢コメディリリーフぶりにもそれが現れている。ただ、あの時代の鎌倉政権と言うのは、日本史上もっとも暗黒面が出たどろどろの集団なので、もう、終わりになればなるほど、どろどろぐちゃぐちゃになってゆく。もう、本当、悪い奴しかいないのだ。

草燃える」は大河ドラマではたぶん初だと思うが二人主役体制になっていて、頼朝が生きている回では石坂浩二が主演で、北条政子役の岩下志麻が止め、頼朝死後は岩下志麻が主演になる。

ところで、岩下志麻は、大河ドラマでは日本史上三大「長男を忌み嫌い、次男を偏愛する母親」、すなわち北条政子、最上(伊達)の義姫、お江を演じているのだが、これも稀有なことではある。

頼朝死後は、北条政子が主役になる、はずなのだが、事実上、主役にのしあがってゆくのが松平健が演じた北条義時である。

三浦の陰謀にのっかって、実朝を排除したり、後鳥羽上皇をいいように躍らせたり、義時はヒール中のヒールなのだが、一方で武家政権を支える高い倫理性と預言者のような頭脳を持ち合わせたオーベルシュタインのような人物である。

この人を大河の題材に選ぶ、と言うのが、三谷幸喜、分かっているなあと言う感じがする。

善人俳優と言うか見るからに善人、善人を演じるしかないよねと言う役者がいる。加藤剛松平健もそうだし、石黒賢妻夫木聡らもそうだろう。ほら「白い巨塔」で里見先生をやらせたらはまりそうでしょう。そう言う役者が知的な悪役を演じると、逆にはまって凄みが出てくる。悪人ってのは善人面をしているものだから。

草燃える」の松平健は凄かった。北条義時の最大の政敵となる三浦義村(こいつも悪い奴)を演じたのが本郷猛もとい藤岡弘なのだが、暴れん坊将軍仮面ライダー、二大正義の味方が、陰謀の限りを尽くすのは迫力があった。

「鎌倉殿の13人」もぜひ、悪の限りを尽くしてほしい。