永住外国人参政権問題について

外国人参政権が司法的にどのように判断されるかについては、平成7年2月20日最高裁第三小法廷で判決が下されている。
最高裁判例検索で全文を読むことが出来る。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/89B4E23F93062A6349256A8500311E1D.pdf
要約すると、

  • 憲法が保障する参政権の対象者は基本的に日本国民である。
  • 地方参政権を外国人に付与するのは違憲ではない。
  • 地方参政権を外国人に付与しなくても違憲ではない。決定は主権者である国民による立法措置次第である。
  • 国政参政権を外国人に付与することは違憲である。

となっている。
永住外国人地方参政権付与が、いよいよ政治日程にのぼっているが、その中で、賛成派からも反対派からも、これは将来の国政参政権へのステップだとの声もあるが、最高裁の判決は明確で、大法廷で判例が覆るか(しかしそれは憲法に明記されている規定であるため非常に可能性は小さい)、改憲でもされない限り、永住外国人への国政参政権付与は将来においてもあり得ない。
ちなみに、私は永住外国人への国政参政権の付与には反対だが、ここではその可能性を考慮する必要はほとんどないのだから、それについては考察しない。


永住外国人参政権を付与するのは国民の意思次第、いったん付与したものを廃法にしてとりあげるのも国民の意思次第である。最高裁判例はいわゆる芦部説とほぼ同様の考えである。
私自身、その考えだが、本来、参政権は、地方と国政と分化されるものではなく、憲法的にもそのように規定されていないと考えるのが自然だと思う。
つまり、参政権国民主権の重要な基底であり、国民とは第一義的には国籍によって規定されるのだから、地方参政権は特別に合理的な理由が無い限り、国政参政権と区分されて、国籍非保持者に付与されるべきものではない。
地方参政権を外国人に付与することは不能な選択ではないが、本来あるべき姿としては付与されるものではない。ごく特殊な事情にかんがみて、そうした立法措置が不可能ではないというだけだ、そう認識している。
国民という範囲を国籍のみに限定せずにもう少し広い範囲でとろうとする考えもあるが、では旅行者と定住者をどう区別をつけるのか、定住者の中でもどのような資格で定住しているかをどう判断するのか、期間は考慮するのかしないのか、その判断はごく恣意的である。
つまり、非恣意的な判断としては、明確な規定性をもつ国籍法(そして国籍法を成り立たせている憲法判断)に由来するしかないのだ。
このような司法的な判断からすると、地方参政権永住外国人への付与がなされないのが基本的人権の問題であるとするのは、明らかに虚偽である。
それは法の基盤たる思想の問題ではなく、ごくポリティカルな問題であるに過ぎない。


この問題が永住外国人の問題ではなく、特別永住者の問題であるのはごく常識的な見方であり、実際、特別永住者が要求したから、こうした動きが生じている。
永住外国人地方参政権を推進する人たち、その賛成派の言い分を検討してみよう。


在日朝鮮人たちは強制連行で連れてこられたのだから参政権が与えられるべき
強制連行と参政権の付与はイコールでは結び付けられない。強制連行があったならば、謝罪と保障をするべきで、そこに参政権が登場する理由はまったくない。強制連行があったならば、謝罪と保障をしたうえで、旧居住地へ帰還させることだ。しかも最近の研究では、実際には強制連行で来日した比率はごく小さいにも関わらず、こうした主張がなされてきたことも明らかになっている。数パーセントの存在を全体に拡大することは、全称命題以外の何物でもなく、外国人犯罪者を取り上げて特定の外国人の脅威を言うことをレイシズム扱いするような人がおかしなことにしばしばこうした逆向きの全称命題を用いるのである。
仮に、強制連行の事実と地方参政権が結び付けられるとしても、その対象になるのは当事者であって、それ以外の人たち(移民や不法密入国者)が対象にならないのはもちろん、子孫が資産として継承し得るものなのかも疑わしい。

かつての大日本帝国臣民の国籍を抹消したのは不当である。
これについては私も同意だが、その場合なされるのは国籍選択の意思確認であって、外国籍のままの地方参政権付与ではない。よく問われる、なぜ帰化しないのかという問いかけに対して、帰化手続きの煩雑さと条件の厳しさを言う人もいるが、かつてに比べれば、ずいぶん緩和されてはいる。しかし、生活保護受給者や禁治産者、犯罪歴のある人が帰化するのは依然として難しく、国籍が本来、生来のものであることを考えれば、できるだけ、少なくとも旧帝国国民は希望すれば無条件に日本国籍取得が認められるのが望ましかったが、これは日本政府、韓国政府、北朝鮮政府、ともに拒否したという事情もある。そうした事情を踏まえて、ではあらためて無条件の国籍選択を可能にするとして、原理的には、旧帝国国民すべてとその子孫にその選択肢が与えられるべきであって、特別永住外国人のみに限定される話ではない。
そして日本と朝鮮半島が国家として分かれてから既に63年が経過していることを考えれば、これもまた現実的な選択とは言いがたい。あり得る選択は、特別永住外国人に限って、無条件の国籍選択を可能にすることで、私はこの案を支持する。つまり、
外国人として日本で生きるか、
日本人として日本で生きるか、
を選択してもらい、特別永住者という制度を段階的に廃止してゆくことが望ましい。法の下の平等を踏まえれば、国籍、参政権は比較的、一律な基準での処理であることが望ましく、永住外国人への地方参政権付与はそれに逆行する制度である。