カトリックの復権?

宗教のことは全然フォローしていなかったら、はてなブックマーク経由で、聖公会が大揺れなのを知る。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/andrewbrown/2009/oct/20/religion-catholicism
BBC NEWS で検索して関連記事を読む。
http://search.bbc.co.uk/search?uri=/&go=toolbar&tab=ns&q=anglican&start=1&scope=all
聖公会英国国教会イングランド教会)がベースになっていて、各国の聖公会に分かれている。
プロテスタントの中でも、近年、かなりリベラルな姿勢を打ち出してきている教会だが、ここに来て保守派との大分裂が生じたよう。
日本では無心論者を自称する人も相当いるが、海外では無心論者を自称するのは相当なリスクを伴うという。これは半分正解で、半分間違いである。西欧諸国では教会の支配力が目に見えて落ちてきていて、特にプロテスタントが多い地域では無心論者も多数を占めるに至っている。
リチャード・ドーキンスが宗教そのものを攻撃する著作を著してベストセラーになり、それに呼応するかのように無神論者を表明する人も増えている。
プロテスタント系の教会は欧州では、よくも悪くもわりあい物分りがよくなっていて、皮肉にもそのことがおそらくプロテスタンティズムの弱体化につながっている。
カトリックにも多かれ少なかれ見られる現象ではあるが、カトリックは遥かに「頑迷固陋」であり、そのことが組織防衛につながっている。
とは言え、おそらく諸国のキリスト教会のうちもっともオフェンシヴなのはアメリカ合衆国原理主義系のプロテスタント諸派で、カトリックの地盤であった中南米にも信者を広げている。
米国の聖公会は例外的に穏健かつリベラルであったが、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8266430.stm
↑の記事に拠れば、修道女たちがアメリカでも聖公会を離脱してカトリック教会に合流するという動きがあるようだ。
イングランド国教会はもともと、教義的な理由からと言うよりは、ヘンリー8世の個人的な利益のために、カトリック教会から離脱した経緯がある。
組織や教義はカトリックにかなり近い。
宗教改革の目的は第一に教義的な理由、第二に教会財産の没収、第三にナショナリズムに由来していて、英国の場合は第三の理由に拠るところが大きかった。
聖公会から離脱、あるいは分裂する際、特にアメリカでは、他のオフェンシヴな教会に合流するよりは世界観が基本的には一致しているカトリックへの合流が自然な形になるのかも知れない。
聖公会において特に争点になっているのが同性愛者の扱いで、素直に聖書を読めば、キリスト教的な見解としては同性愛者を擁護するのはかなり難しい。
もちろん、擁護する場合、理論的な構築はなされてはいるのだが、かなりアクロバティックなものであるのも、おそらく確かである。
TVドラマ「ホワイトハウス」で、バートレット大統領は、カトリック信者で若い頃は神父を目指し(その後、経済学者に転進)、(カトリック系名門大学の)ノートルダム大学を卒業した設定になっている。彼はその豊富な神学知識を駆使して、同性愛者を擁護するのだが、カトリック全体から見れば、標準的な見解ではない。
リベラルが「圧倒的に」優勢なニューイングランドや、現代の英国において宗教という、必ずしもポリティカルコレクトネスと一致しない分野において、「ついていけない」保守的な考えの人たちは、より穏健な選択肢としてカトリックを選択することになるのかも知れない。
カトリックがその保守性によって、ある種の「憎悪」の受け皿となっているのである。


これもまた、保守の憎悪性のひとつの表れだろう。保守はその自らの憎悪を「穏健さ」と見たがるのである。
今日的な人権基準では、性別や性的嗜好を理由として、任用を決めるのは許されない。それが明らかになり、証明され、裁判になれば差別的措置を行った団体は必ず負ける。
英国聖公会の首長が君主であり、宗教改革以後、事実上の国家宗教であったことを鑑みて、英国聖公会では特に、政府の論理と致命的に分裂することは聖公会には許されないと言うべきだろう。
つまり、聖公会が近年進めていた「過激なリベラル政策」は、政府という公共圏にあっては過激どころか、積極的になされなければならない最低限度の是正であって、これに反対する者は名実共にレイシストである。
聖公会の保守派やカトリックは「レイシズムを宗教の名において擁護するために」聖公会の分裂を促しているのであって、信教の自由が、基本的人権の擁護と現実に相容れない時に、少なくとも言論においては宗教は批判に晒されるべきである。
リバタリアン、つまり自由を擁護するのであればなおさら。