乙武さんの話

さんざん話題になっている話だけど、乙武洋匡さんが土曜の夜にイタリアンレストランを予約していたところ、いろいろあって入店を断られたと言う話。
 正確に言えば、
・レストランには車椅子が入れない構造になっている。
・車椅子を路駐にして、乙武さんを抱えて入れてくれないか、店のスタッフに連れの女性が交渉。店のスタッフが了承する。
・10分外で待っていて、遅いので、女性が様子を見にレストランに入ると、オーナーから手が足りないので、そういう対応は無理、と言われる。若干の口論あり。
・その後、わざわざ階下にオーナーが下りてきて、更なる口論になる。
 「車椅子なら前もって連絡しておくのが常識でしょ」
 「そんな常識聞いたことがありません。なら広範囲に聞いてみてどちらが常識なのか聞いてみますか」
 「おう、望むところだ」
みたいなことになって、乙武さんが事の経緯を説明して、twitter で店名を公開。
その結果、乙武さんが主に叩かれているわけだから、日本の常識はどうも、車椅子利用者や特別な支援が必要な障害者が町を出歩いたり、店舗に入るのは常識ではないということにされそうだが、それでいいのかな、という気はする。
 大体この辺が標準だろうと想定を持つのは結構だとしても、そこから外れた人であっても一人の人間ではあるのであって、基本的には店側の落ち度に思える。つまり、車椅子利用者なら事前に言っとけというのではなくて、それに対応できない場合があるというならそれを言っておくのは店側の義務だと思う。
 車椅子でどこへ行こうが、日本国家においては完全に合法なので、合法な行為をあたりまえのようになしている客に対して対応できない店舗側の方が本来、言い訳をするべきなのではないだろうか。
 この件は乙武さんを批判している声が多いが、訴訟になったら店側の方がまず負けるだろうと私は見ている。それは障害者差別がどうしたとか、障害者を守らなければならないのでその排除は違法とか、そういう福祉的な理由ではなくて、法理的に考えたらそうならざるを得ないだろう。
 乙武さんは、目が悪い人が眼鏡をかけているのと同じ理由で車椅子を用いていて、予約をして、そこでは何の断りも入れられず、時間と交通費を使って、その店舗に赴いた。乙武さんにひとつ分が悪い点があるとすれば、それは彼を抱えて入店させると言うイレギュラーなサービスをお願いしている点だが、これもそもそもは車椅子では物理的に入店が難しいことを伝達していない店側の落ち度なので、そうお願いすること自体、実は乙武さん側の譲歩である。
 客側がすでに時間と費用をかけるというコストを費やしている以上、それに見合った契約上の義務が既に発生しているのだが、店舗側にその意識が欠落しているために、乙武さんの側の譲歩さえ過剰な要求と捉えてしまう。本来のデフォルト地点は、そういう交渉もなしに入店できる、というところなのだが、本来の水準がどこにあるかを店舗側は全く考慮していないために、赤の他人同士の会話なのに「それって常識でしょ」みたいな小学生みたいな論理を持ち出している。
 端的に言って社会人として幼稚過ぎ、経営者としてお粗末すぎる。
 いろいろ理由をつけて自分の望む通りでしか経営できないと言うなら無人島で常連だけを相手にして商売をすればいいのに。日本は法治国家であり、法治国家においてその法の精神を尊重できない形でしか営業できないというならば、それはもう中学生の言い訳以下である。この店のオーナーも、それを支持している人もよくよく考えた方がいい。