あなたの子供が就職できないのはあなたのせい

先日、就活に疲れた青年が自殺をしたという話がニュースで取り上げられていた。私も、もし早くに子供が出来ていれば、その年頃の子供がいたとしても不思議ではない年齢なので、どうも他人事とは言えないような思いがして、ニュースを見た。
S大学は国立大学だから、90年代の就活だったら、正社員での就職が出来ないということはまずなかったはずだ。しかし自殺したそのS大生男子学生は100社以上受けてことごとく落とされていた。正社員での就職は難しいかもと親に漏らしていたと言うが、どうも親も「もうちょっと頑張ってみれば」みたいなことを言ったようなのである。一流企業とまではいかなくても、そこから少し下げれば、正社員の職なんていくらでもあるだろう、そこに行って欲しいと思うのも親心かも知れないが、そうおいそれとはないのが現実。
楽々就職しているように見える人の大半はやはりコネがあるからで、先日、岩波書店がコネがないと採用しませんと公言していたが、あれは公言するだけマシであって、出版社は基本的にどこもそうである。ただし、コネがあれば採用されるというものではなくて、コネがあっても当人の水準があんまりな場合、コネで入社させる利益と不利益をかんがみて落とすこともあるだろう。その辺はビジネスである。
日本だけがそうだというわけではないが、日本もコネ社会なのは確かで、「ある程度の水準は求む」という但し書きはあっても、一割から二割はコネでの就職だろう(不況時にはその比率は高くなるはずだ)。
華族・大名家の末裔を見ていれば、そのほとんどは、有名企業に就職されていて、ご年配であれば役員も多い。そのすべてがコネだとは言わないが、徳川慶喜家の末裔である写真家の徳川慶朝さんが成城大学をご卒業なされる時、向こうから経団連会長が会いに来て、どこに就職したいですか、そのように手配しましょうと申し出たというような話もあり(徳川さんはそのコネを使わなかったからエピソードとしてお話されているわけだが)、いわゆる上流階級のコネクションも健在であると見るべきだろう。細川護煕元首相も卒業する時に、「選んで」朝日新聞に入社したと述べているが、当時のことを思えば、早慶卒でも新聞社に入社するのは難しく、上智卒が「選べる」立場ではなかったのが通例であったことを踏まえればこれもまたコネによるものと捉えるべきだろう。
早々に一流企業に就職を決めるような場合はよほど優秀なのか、たいていはコネによるのであって、子供が就職で苦労するのは第一に親にコネがないせい、第二に大学の名前と支援体制のせい、第三にようやく当人のせいだろう。
私は別に就活生当人を責める代わりにその親を責めようというのではない。ただ、場合によっては今もって一億総中流の幻想の中にいる親の世代の意識と、就活生が直面している現実にどうも乖離があるような気がするのである。
親の世代は自分たちの経験をふまえて、「がんばれ」と言ってしまうのかもしれないが、20年前の常識が通用する世界ではもはやない。S大学はS県ではトップの国立大学だし、近県で就職するにしても、恥ずかしくは無い学歴である。合格した時点で、まあ安泰と親が安心したとしても、20年前の常識ならばそれも当然だっただろう。その常識があるから、もうちょっと頑張れば何とかなるのではないかと百社も受けて落ち続けている子に更に努力を課してしまうのではないだろうか。
それがファンタジーですよ、と提示して現実を見てもらうなら、親にコネがないせいで就職も楽ではないというのも現実の一つなのだから、そこを踏まえて貰わないことにはどうにもならない。楽々、就職を決めているように見える隣の誰々君には親がしっかりしていてコネがあるんですよ、と。
デフレの20年とは言え、経済規模自体は拡大している中で、新卒生の人数が大幅に減少してなおかつ就職難である。
これはひとえにOA化、IT化、グローバル化が進んだからであって、エクセルがあればそれ以前の事務職員何百人に匹敵する生産性をあげられるとなれば、ホワイトカラーの需要が激減して当然である。おそらく3-Dプリンターの普及と発展は、製造業、特に日本の十八番である部品産業や金型技術を今後、同様に直撃するだろうが、OA化はすでに完了している。
完了する前に就職活動をした前の世代の常識がまったく通用しないのは当たり前であって、まったく通用しないんだということを、親の世代がまず理解しなければ、就活生である子の世代は社会からも家庭からも疎外されるだけだろう。