宮崎マッサージ店強姦事件考

宮崎県のマッサージ店で複数の女性が店主から強姦されたと訴えている事件で、被害女性の一人に対し、強姦場面を撮影したビデオがあると被告弁護士から言われて、親告罪である強姦罪の告訴を取り下げればビデオを処分すると言われたことについて、議論があるよう。
私が最初に読んだ記事は、毎日新聞の、
http://mainichi.jp/feature/news/20150121mog00m040008000c.html
こちらの記事であったが、これについて被害者側の言い分を全文掲載した毎日新聞を称賛する向きもあるが、私は毎日新聞はいささか踏み込み過ぎたように思う。この記事の中では、被告が否認していると言うことが示されておらず、中立性を著しく欠いているというしかない。被害者女性は「脅されたような恐怖を感じた」と述べているが、これは被告側の弁護士が「脅すような恐怖を与えた」ということで、これを述べることについては被害者女性は相手側の脅迫の意図を立証する責務を負うことになるのだが、そこまで毎日新聞は理解しているのだろうか。
毎日には産婦人科たらいまわし問題などセンセーショナルな報道を行って事態を悪化させた前科が数え上げれば幾つもあるのに、またしても節度を踏み越えたのではないか。
私は当初、この案件が被告が否認しているとは思わなかったので、脅迫にかなり近いのではないかと思ったのだが、否認しているならば事情はかなり違ってくる。
参考で、
http://hiroshima-lawyer.com/column/20150119/
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150120-00002574-bengocom-soci
こちらを。
この事件を受けて、
http://dissonance-83.hatenablog.com/entry/2015/01/23/015519
こういう記事があったが、ひとつ反論をしておくと、「強姦でなく「合意」があったと合理的に判断でき、高い蓋然性を持ってそう確信できるのか?」という問いかけはまったく意味がない。被告が否認している以上、職業上それを支持し、その線に沿って弁護を行うのが弁護士の任務だからである。
ちなみに、与えられた材料から、被告の無罪ストーリーを描くことはまったく不可能ではない。
このような素朴な正義感覚から弁護士を批判すれば、それが刑事訴訟そのものをいずれは崩壊させることになる。
強姦場面を撮影したビデオについても、それがあること自体は、違法性なく存在していると考えられる。公園等にも監視カメラはついているが、それに映るように性行為をなせば、それは盗撮になるのか。ならない。
マッサージの施術をなす場所に、「言った言わない」を防ぐために監視カメラを置いておくのはすぐさま違法性があるとは言えないだろう。マッサージの施術をなす場所が、トイレや脱衣所のように、高度にプライヴァシーが保全されるべき場所なのかどうかという判断が別途に必要なのであって、そもそもそこで性行為がなされることがイレギュラーなのだから、カメラを設置することと、強姦ビデオを撮影することは直線的にはつながらない。
これが盗撮だから証拠性がない、違法だと言う意見には私は賛成できかねる。
だが、被告側弁護士の申し出が、脅迫のニュアンスがまったくないかどうかについては、私はそれが無かったとは思っていない。
被害者女性の語るビデオの内容に拠れば、
・当人が想定していたほど強くはないが、抵抗はしていること。
・言葉でも性行為をやめるよう、言っていること。
等々を踏まえて考えれば、これは被告にはむしろ不利な証拠と言えるだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150120-00002574-bengocom-soci
こちらの記事では、

ビデオが無罪を立証するようなものではなく、被告人が有罪になる可能性が高い場合はどうでしょうか? この場合は、ビデオは被告人の有罪を立証する証拠ですから、弁護人であっても無闇に処分すれば『証拠隠滅罪』に問われます。捜査機関がこのビデオを押収すれば、裁判所に証拠として提出し、法廷で上映される可能性が高いでしょう。そのあたりの事情を弁護人がどのような『言い方』で説明したのかが問題になるでしょう

と言っているが、そもそも処分云々はともかく、被告に不利な証拠を被告側が出す義務はないのだから、不利になるのだと知っていて存在が知られていない証拠を出すのは弁護義務違反である。この違反をなしても、被告側に大きな利益を引き出せるとすればそれは、ビデオの内容ではなくビデオの存在そのものによって、ビデオを原告が視聴しなければならない負担によって、告訴を取り下げさせることだけだ。それはつまり、その申し出に脅迫性があることを被告側弁護士が認識していたということであって、ここは通常の弁護士の職責から考えても大きく逸脱した行為だと私は考える。