山下達郎に聞いてみたいこと

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2019年年末の紅白で、AI美空ひばりが登場した件について、山下達郎が「あれは冒涜です」とバッサリ。

まあ、山下達郎ならばそう言うだろうなと思う。1953年生まれ、東京で一人っ子として育った彼は、進学校に通いながらも、海のものとも山のものともつかない、ポップス音楽業界に進んだ人である(そしていわゆるシティポップの開拓者の一人になる)。

信念の人でないはずがなく、音楽についてはもちろん、ありちあらゆることについて一言居士であるのは、今に始まったことではない。リンク先の記事のブックマークコメントで「山下達郎はラジオをやっているのか」と驚いている人もいたが、ラジオDJは彼のキャリアの重要な部分であり、結構、いろんなことに物申している。そしてその論理構成はかなり緻密なので、故やしきたかじんのようには、それをメインに出していないだけであって、時事問題を扱うパーソナリティには実は適した人でもある。

もちろん、彼の音楽的な造詣の深さとこだわりは、彼に「俗世間から超越した神仙」めいた印象も与えているけど、実際にはかなり政治経済寄りの人でもある。

あの世代のアーティスト、ざっくり言って「フォーライフ世代」「はっぴいえんど世代」は、マネージメントと言う点でもかなり合理的な経営思考を持っている人たちが多くて、と言って、その部分を必ずしも全面に出していないしたたかさがある。

ビジネスパーソンとしてそんなに与しやすい人たちではないのだ。「芸術家肌」と侮っていれば、そう侮った人たちは敗北していったのだろう。

ニューミュージックとは方向性が違うが、例えば矢沢永吉なども、非常にクレバーな経営者であって、たぶん大企業の経営も務まる人だ。混沌の芸能ビジネスの中から、アーティスト産業を立ち上げてきた人たちと言うのは、それだけの胆力を持っているのであって、単なる「芸術家肌」では務まらない。

竹内まりやが、山下達郎に「今後も音楽活動を続けていくにはどうしたらいいか」と相談したのが二人のなれそめだと言う話も、「一生懸命に聞き手のために歌を歌いなさい」と言うような精神論ではなく、具体的なビジネスメソッドの話であったはずだ。

彼らが商品として世間に提示している肖像画と、本来の自画像の間には開きがあるのだ。

この辺の紆余曲折は、もうすでに後世に残すべき歴史であって、彼らも還暦を過ぎているのだから、例えば松任谷由実松任谷正隆あたりに、裏も表も記した歴史書を残してほしいものだが、あの世代のすごいところは未だに現役への執着があるところだ。

ユーミンとかは、傑作を腐るほど書き上げて、富も名声も人生百回分くらいは確立しているのだから、そろそろ「伝記」作りにかかってもよいのではないかと傍から思うけれど、You Tube での配信を本格化させるなど、がっつりトレンドをわしづかみにしている。

それで、一言居士としての山下達郎の話だが、まあ、9割以上は、まったく同意と言うか、道理にかなったことしかこの人は言わない。それが世間から見て新鮮に見えてしまうのは、道理がいかに世間では歪められているかということでもある。

 

その、孤立峰のように清廉潔白な山下達郎なのだが、彼に一点の汚点があるとすれば、それはジャニーズ事務所との関係だ。

彼のプロデューサーでレーベルの立ち上げ者でもあり、ビジネス面での音楽的同士ともいえる小杉理宇造は、ジャニーズ事務所の取締役であり、ジャニーズエンタイテイメントの社長でもあった。元は、RCAで近藤真彦を担当した縁である。

山下達郎が近藤の「ハイティーンブギ」を作曲し、ジャニーズエンタテイメントの主力商品であったKinkiKidsの楽曲を担当しているのもこの縁だろう。

中森明菜の、例の金屏風会見の際、彼女はデビュー以来属していた事務所、研音を退社していて、彼女側にたって守ってくれるスタッフがいなかったのだが、当時、中森明菜の個人事務所の社長であったのが小杉である(ジャニーズ事務所の取締役でもあった)。

小杉はSMAP解散騒動でも、暗躍が噂されていたが、一言居士である山下達郎はその騒動についても他の業界人と同じく無言である。

まあ、無責任な第三者であるから、私はそういうことこそ、山下達郎の考えを知りたい、何か発言して欲しいと思うのだが、なかなかそうはいかないだろうね。

なにしろしたたかな世代であるから。