東亜の外交基本政策について

民主党政権が誕生し、外交政策の継続を危ぶむ声もあるが、私はそれほど心配する必要はない、逆に言えばそれほど期待するには当たらないと思っている。日米同盟の基本的な枠組みは堅持されるであろうし、その範囲内での自己主張ならばむしろやっていかなければならないことだからだ。
日米同盟なる具体的な争点は別にして、外交上の係争や、外交的孤立を極端に恐れる戦後日本外交の癖をこれを機に改められるならばそれに越したことはない。
外交的孤立はしないで済むならばしない方がいいにしても、国益と孤立を比較して場合によっては孤立を甘受しなければならない局面も生じる。問題はそれが生じた時の得失差と、守備力、ならびに相手の攻撃力である。
たとえば、80年代に東南アジア諸国との関係で日本は唯一の先進国であったがゆえに、経済上の争点で総対立になる局面もあったが、東南アジア諸国に状況支配力が無かったため、別に孤立しても問題はなかったわけである。
盲目的な「国益重視」がもたらす場当たり的な孤立は回避しなければならないのと同時に、いかなる状況でも孤立を恐れるような、「原則を以って聖典とする」が如き、思考の欠落した盲目もまた退けられるべきである。
外交に「信念」は要らないのだ。
基本方針を建てておくこと自体は重要である。
http://d.hatena.ne.jp/zyesuta/20090910/1252570201
リンク先の記事を参照にするならば、当時のドイツの基本的な命題はフランスの外交的孤立であって、フランスは当然それを免れようとするだろう。
フランスにしてみればドイツを主要敵とするならば、
1.ロシアとの協調
2.英国との関係改善
3.スペインの無力化
4.イタリアとの利害調整
を計るはずだ。ドイツの外交基本政策はフランスの意図を挫くものになるはずだ。
1.ロシアとの協調もしくは封じ込め
2.英国との対立回避、可能であれば同盟
3.スペインの反仏政府の樹立
4.イタリアとの同盟
ロシアについては、ドイツ自身、相互に脅威となっている。ロシア-フランスの関係はドイツを間に挟んで自然な同盟関係になっているということだ。ドイツにとって、フランスとロシアはポジション的に入れ替え可能な存在であり、どちらを主敵と見なすかで、その位置は入れ替わる。
ロシアとは協調政策を採り、一方の脅威を軽減するに越したことは無いが、それはロシアとの関係でドイツが一方的に劣勢に立たされることを意味する。
ロシアの興隆が甚だしければ、その危険さは危機へと至るだろう。二正面作戦を避けるのは、それが可能ならばそうするべきではあるが、二正面作戦を避けた結果生じるリスクもまたあるわけだ。
露仏協商体制をデフォルトなものと見なした上で、ロシアをもまた包囲する政策もあり得る。
中国やシベリアにおける抵抗運動の支援、ロシアの対抗勢力としての日本の育成、それが筋の通ったドイツの外交的利益になるだろうが、ヴィルヘルム2世がやったことはそれとはまったく逆のことだった。
英仏が海外植民地権益を巡って抗争関係にあるのに対して、英独は19世紀にはめぼしい対立要因がない。英国との同盟関係の構築は、むしろなされない方がおかしいという状況であったにも関わらず、ヴィルヘルム2世は海軍拡張に乗り出し、英国による制海権に挑戦している。
三国干渉で日本を敵に回し、海軍軍拡競争で英国に危機感を抱かせ、と言って、露仏とも相変わらず対立関係にあり、カイザーの外交政策は余りにも無茶苦茶だった。
民主党政権が構築する外交政策がそのようなものであってはならないのは当然である。
しかし冷戦期に構築された日米安保体制の内実が、現在の世界にあって変容してゆくのは避けられない。


英米は緊密な同盟関係にあるが、英国側に長年に及ぶ忍耐が不要であったわけではない。
古くはアメリカ国内の勢力による、インド独立派への支援、IRAへの支援、英国にしてみれば明確な敵対行為もアメリカは規制しなかったし、アメリカが望むように道筋をつけてきた。
アメリカは超大国であるがゆえに、外交政策が国内の事情で歪められやすい国なのである。
つまりアメリカとの外交関係は純粋に外交政策のみを考慮すれば良いというものではなく、容易にプロパガンダに絡めとられやすいのであって、それはほぼ一方的にアメリカ側の責任である。
アメリカの外交政策は外交的な限度を踏まえたコントロールがききにくい面があり、これをいかにしてコントロールしてゆくかという課題が日本外交にはつきまとっている。
ただ、単に日米安保を後生大事にしているばかりでは、日米安保も守れないことを考慮すべきだろう。
適度の緊張感を与え、アメリカ外交から可能な限りポピュリズムを排することが必要なのであって、局面ごとにはアメリカと対立することも覚悟しなければならない。
地球は球体であるから厳密に言って、端はない。
地政学的な端の優位性は言うまでもないことだが、地球には端は無い。
しかし相対的には端はあるのであって、島であるアメリカは旧世界から物理的距離の遠さによって、端の位置を得ている。
日本と中国は、アメリカにとって、それぞれ「端を脅かす」可能性がある国であり、中国から見て日本は独自の存在としても、アメリカの属国としても脅威である。
日米中は擬似的な三すくみの関係にあり、それはつまり、仮に日本が中国に接近すれば、アメリカは日中の脅威に晒される、逆に言えば中国との関係改善目的で日本を貶めることもあり得るということだ。
それをさせないためには、どうしたらいいかという話である。
それは反米ばかりか親米からも答えはもたらされないだろう。