韓国の外交政策

台頭する中国に対してどのように向き合うのか、これが多くの周辺国にとって重要な課題であるのは確かだとしても、そのありようは、その国が置かれた立場、地理的な位置によって違ってくる。過去の経験も関係してくるだろうし、現在持っているもの、失われては困るものによっても左右される。そこの判断で、道義的な議論をしても仕方がないことだ。
韓国が中国にいずれ取り込まれるのはやむを得ないことだと思う。軍事的に前線に位置するという脆弱性はもとより、韓国の場合は国内に資産が蓄積していない。ストックによる支えがない以上、経済においては単年ごとのフローに依存する構造がより強力に作用するわけで、既に対米対日輸出を大きくうわまって対中輸出に韓国経済の生命線が握られている以上、中国と対立する選択肢は韓国には無い。
もちろん本音から言えば、韓国人とても怪しげな中国に依存するよりは、既になじんでいる旧来の西側陣営にとどまりたいという気持ちはあるのだろうが気持ちだけではどうにもならない。それを不道徳だと責めたところで、僕が韓国の外交を仮に担当するとしても、「美しく中国の属国化するために」、東アジアにおいて自由主義陣営の相対的に弱い拠点である日本を「侮蔑」し、中国との共通利益を強化してゆくだろう。
このことが中長期的に避けられると思ってはならないのだ。
麻生元首相が提示した「自由と繁栄の弧」は今後の日本外交の基軸になるべき基本戦略であるが、要は最終的には、多少の不利益があったとしても中国と対峙する覚悟がその国の国民にあるかどうかという話になる。そしてその覚悟は単純に道義的な話ではなくて、地政学的な位置付けや国民世論、歴史的な問題、経済的な得失によって左右される。
例えば台湾は、現状維持から踏み込んで中国に接近すれば独立そのものが脅かされる状況にあるので、最終的に対米関係と同様のウェイトで対中関係を構築することは出来ない。ベトナムについては70年代において米中という二大大国の侵略を退けたという成功体験があるので、韓国ほどはたやすくなびかない。
韓国が独立については歴史的にかなり頑強にこだわってきたという経緯があるにしても、独立と言う枠さえ守られれば事大主義に流れてきたという国民性を踏まえるならば、中国に依存した形に流れてゆくだろうことは容易に予想される。
この大枠の流れの中で、韓国をこちら側に引き戻して、日本の、そしてアメリカの利益につなげようとする試みは、短期的には成功するかも知れないが、中長期的には失敗するだろう。それは結局、中国が韓国に提供し得る以上のものを自由主義陣営が提供できないからである。
21世紀に入ってからの中国の積極的な領土政策によって「平和的台頭」が夢物語であることははっきりしてきた。と言うか、最初から夢物語であると大方の人には分かっていた。であるから本音で言えば周辺国はいずれも中国を封じ込めたい。その願望があるのは確かだが、そこからどう行動するかは具体的な得失や世論、歴史的な経緯次第である。
韓国の頑強な民族主義が、中国に対しても発揮される余地はあったし、今後も単発的にはあり得るのだが、日米のように「言いやすい相手」以外に対しては、むしろ事大主義を優先させるという、それを道徳的に指弾するのは感情論であって、むしろ韓国の国家理性が韓国の置かれた状況を踏まえたうえで、理性的である証であろう。
この中長期的な傾向を踏まえるならば、短期的に韓国との関係で、日米が中国と綱引きをして利益を引き出そうとするのは徒労であるばかりか、「自由と繁栄の弧」が分断される危機をもたらすという点において、致命的な不利益になるだろう。
少なくとも日本はそろそろ韓国を敵として認識して扱う覚悟を決めるべき時期に来ている。
問題はアメリカの動きが鈍いことであり、これはもちろん米韓同盟の既得関係があり、その関係の中で、外交問題外交問題として認識されずに、リベラルと保守のアメリカ国内の対立軸で処理されてしまうせいであるが、安倍首相の河野談話の見直しは時期的には、このリベラルと保守の対立軸の文脈を強化することになってしまっている。
リベラル的な価値判断を離れて純粋に外交的な得失から考えても、安倍首相が歴史問題においてなそうとしていることはある意味、数世代早すぎるのであり、それは「自由と繁栄の弧」が十分に構築されて以後の課題とすべきである。もちろん国内的な文脈から言って、私は河野談話の見直しに反対であるが、それはそれとして、そのことの価値判断的な是非は問わないとしても、得失的に無理があるとは思う。
日本外交の最重要課題は自由と繁栄の弧の構築と強化にあるのであって、既に覚悟を決めつつある海洋アジア諸国との連携、場合によっては軍事条約を先んじて構築することを優先すべきであって、韓国をどうこうできるとは思わない方がいい。
自由と繁栄の弧が十分に実態を持って立ち現れたならば、韓国は結果的に追随する可能性がまったくゼロではないが、それは結果として生じるものであって、韓国は原因にはなり得ない。