アジアにおけるインドの位置づけ

インドが地政学的に恵まれているのは、孤立した半島であるということだ。
欧州、ロシア、日本、アメリカと世界の主要な大国から地理的に離れた場所にあり、相互に直接的な脅威となる可能性が低い。
例えばロシアによるインドへの武器輸出ひとつとっても、双方に経済的・軍事的利益が発生し、なおかつそれが軍事的・外交的脅威とはならない win-win の関係にある。同じことが、インドは、日本、アメリカ、欧州との関係においても構築可能である。
インドの人口規模、高い出生率(戦争における人的損失耐性がある)、そして議会制民主主義国家であるという大義名分からしても、中国の対抗馬として期待するに充分な条件を備えている。
無論、そうした条件はインド政府も考慮しているはずで、ただ闇雲に利用されるはずもない。
地政学的な安全を前提として、自身をより「高く売る」ことを考えるはずだ。
中印国境紛争での経験から、インドには中国への不信と恐怖感情があるが、経済成長のためにも中印国境と周辺資源については、インドは現状維持が当面の目標のはずで、中国については消極的敵対、あるいは表面上の友好関係を維持しようとするだろう。
問題は中国側に暴発する危険があるかどうかである。
地政学的にインドと比較して遥かに不利な位置にある中国であるから、常識的に考えれば、中印国境地域での紛争拡大は望まない、はず、であるが、最近、水資源の確保になりふりかまわず躍起になっていることから、これがインドとの間で致命的な争点になりつつある。
国内事情によって外交政策が突き動かされる危険が中国にはあり、皮肉にも、相対的な民主化が中国において進展するにつれ、その危険性は強まっている。
基本的には被害者意識に凝り固まった、自分本位な中国人のメンタリティ(もちろん中国人のみに見られる現象ではないが)に由来している。
こういうことを考えると、歴史と言うか、遠い19世紀の歴史からさえ、私たちは逃れられないのだなと思う。
本来、中国にとって第二線であるべき中印国境が、「主戦場」となる危険が強まっている。
その危機は、中印国境紛争で惨敗した経験がインドにはあるだけに、一端、それが強まればなし崩し的に拡大していく可能性が強い。その場合、自分を「高く売る」フリーハンドを失うことになるが、それはむしろ日本にとっては望ましいことである。