ジャコバイトの王

王位の正統性は何によって担保されるかという問題だが、歴史によって、としか言いようが無い。
イングランド/英国の例を見ると、幾つかの「継承争い」があり、その闘争の中で継承方法が次第次第に形作られてきた。現在の継承法は、ウィリアム3世が勅令で定めた継承法に由来しているが、そもそもウィリアム3世に何の権限があってそれを定めたのかという問題も生じる。
あけすけに言えば、名誉革命の武力が担保になっているのだが、そうしたものも含めて、歴史である。
名誉革命でジェイムス2世は王座を追われ、彼の幼い息子ともども外国へ亡命したのだが、後を襲ったのはジェイムス2世の長女のメアリーと甥にして娘婿のウィリアム3世だった。
ジェイムス2世には、
1.長女メアリー
2.次女アン
3.ジェイムス(老僭王)
の子がいたが、普通は息子のジェイムスが後継者になる。しかしカトリック信仰を理由として王座を追われ、ジェイムス皇太子もまた、カトリック信仰者であったため、長女メアリー、次女アンが王位を継承することとなった。
さて、皇太子ジェイムスであるが、彼はイングランドならびにスコットランドの王位継承権を主張し、その主張は息子のチャールズ若僭王へと引き継がれたが、ジェイムス2世の男系の嫡出子孫は、チャールズ若僭王の弟のヘンリー・スチュアート枢機卿の逝去によって断絶した。
この時点で、メアリー1世女王もしくはアン女王に嫡出子孫がいれば、仮に名誉革命がなかったとしても文句なく英国の正統王位継承者となるはずだったが、彼女らにも子孫は無かったため、ジェイムス2世の嫡出子孫は男系、女系ともに断絶することになった。
アン女王の後に王位に迎えられたのが、ハノーヴァー選帝侯のゲオルグ・ルートヴィヒ・フォン・ブラウンシュヴァイク・ウント・リューネブルクである。いわゆる英国王ジョージ1世である。
この王位継承は血統的には、ジョージ1世-ハノーヴァー選帝侯妃ソフィア-ボヘミア王妃(プファルツ宮中伯妃)エリザベス-イングランド王ジェイムス1世と流れを遡ることによって、正統性を担保している。
つまりハノーヴァー朝スチュアート朝初代のジェイムス1世の女系子孫である。
しかしスチュアート朝第二代のチャールズ1世の王女ヘンリエッタ・アンの系統が別途に存在していたため、血統的な近縁で言えば、ハノーヴァー朝よりもヘンリエッタ・アンの系統の方がスチュアート王朝に近い。
ただしカトリックであるため、英王位から排された。
ジャコバイトと呼ばれるジェイムス2世支持派はスチュアート家の断絶後は、このヘンリエッタ・アンの血統を「正統王位継承者」と見なしている(ただし当の「王位継承者」たちは王位を主張していない)。
さて、このジャコバイトの王の系譜を見ていくと、ヘンリエッタ・アンを通じて、まず、サヴォイア公家(サルディニア王家)へと継承権が伝えられた。
サヴォイア公家と言えば、もちろんイタリア王家であるが、イタリア王家成立以前に、ヘンリエッタ・アンの男系子孫がサヴォイア公家の中で断絶したために、イタリア王家そのものはジャコバイトの英国王位継承権を持たない。
サヴォイア公家からモデナ公家へと継承権が渡った後、バイエルンの最後の王妃マリア・テレジアがジャコバイトの女王となった。
現在も彼女を通して、バイエルン旧王家のヴィッテルスバッハ家が「本来の正統英国王位」をジャコバイト的には保有していることになる。
現在のバイエルン「王」には実子がないため、実弟の家系が地位を引き継ぐことになるが、その実弟にも娘がひとりしかおらず、将来的にはその娘がジャコバイト的には「イングランドならびにスコットランド女王」になる(バイエルン王位はサリカ法で継承されるため、彼女の代でバイエルン王家とジャコバイトの英国王家が分かれることになる)。
その娘というのがリヒテンシュシュタイン公国の摂政皇太子妃のソフィー(バイエルン王女ソフィー)である。リヒテンシュタインのアロイス摂政皇太子との間に三男一女をもうけているので、将来的にはジャコバイトの英国王位はリヒテンシュタイン公家が引き継ぐことになる。