英王室の貴賤結婚

そう言えば、ウィリアム王子の結婚について asahi.com にこんな記事があった。

 英国のチャールズ皇太子と故ダイアナ元妃の長男で王位継承順位2位のウィリアム王子(28)が29日、ロンドンのウェストミンスター寺院でケイト・ミドルトンさん(29)と結婚式を挙げた。式には各国の王族ら1900人が出席、沿道では大勢の観衆が祝福した。

 「未来の国王」が一般家庭出身の女性と結婚するのは、1660年のヨーク公(のちのジェームズ2世)以来、約350年ぶり。王族の一員となったケイトさんは「ケンブリッジ公爵夫人」の称号を与えられ、今後は愛称の「ケイト」ではなく、正式名を使い「キャサリン妃」と呼ばれる。
http://www.asahi.com/international/update/0429/TKY201104290346.html

「未来の国王」が一般家庭出身の女性と結婚するのはヨーク公以来という言い方は、工夫だなと思った。
王位継承の直系に位置しない王族で平民と結婚した人はいるし(最近ではウェセックス伯妃ソフィーが平民出身だった)、結婚した後も爵位を与えられなかった人もいる(アン王女の二人の夫がそうである。従って、彼女の二人の子供は女王の孫でありながら平民である)。
ヨーク公ジェイムズ、つまり後のジェイムズ2世は確かに結果的に「未来の国王」になったわけでが、平民であったアン・ハイドと結婚した時点で、王位継承の直系にいたわけではない。兄のチャールズ2世が妃を迎えるのは、王弟に遅れること2年、王妃が子を産めば当然、王位継承はそちらで引き継がれてゆくわけで、1660年の時点では、ヨーク公は「未来の国王候補」でさえなかった。つまり意味合いとしては、ウェセックスエドワード王子の結婚と同じく「傍系王族の結婚」以上のものではなかった。
「なんと350年ぶり!」
とささやかなセンセーショナリズムを煽ろうとして、かえって「矮小化」した例である。直系の王位継承者に位置する者の結婚としては、前例がないのだから。
エドワード8世が平民のウォリス・シンプソンと結婚した例はあるが、これは退位後の話であるし、除外すべきケースだろう。
現役の君主もしくは直系の王位継承者が平民(非貴族の娘)とした例としては、ヘンリー8世まで遡る必要があるだろう。キャサリン・ハワードとジェイン・シーモアを平民とみなすかどうかは、また別の考察が必要だろうが。