名誉ある敗北

先日の参議院選挙で与党である民主党は大敗、国民新党は惨敗したが、その原因については、様々な見方があろう。鳩山前首相と小沢前幹事長のカネにまつわる諸々の疑惑、菅首相の消費税率引き上げ発言、敗因はいろいろと考えられる。
私自身について言えば、今回ほど投票先に迷った国政選挙は無かった。ある意味、これまでは楽だった。おおむね第一野党に投票してきた。今回、民主党が与党として初めて戦う国政選挙であり、私は第一野党に投票してきたのではなく、リベラル勢力に投票してきたのだと知った。
自由民主党にはどうしても投票する気にはならなかったからである。
では、みんなの党か ― 世論調査の結果がもう少し民主党にとっては良ければそうしたかも知れない。選挙予測が民主党に対して非常に厳しいものだったので、ある意味、民主党に投票せざるを得なかったのである。
私が民主党への投票をためらった理由は、政権奪取後しばしば見せた強引な国会運営、党利党略のみにとらわれているとしか思えない言動の数々のせいである。
民主党は予想以上に権力者として未熟であった。それらの態度は主に、小沢-輿石-山岡のラインから生じていたから、私が民主党への投票をためらった理由は、小沢一郎への拒否のためである。
私は反小沢一郎民主党支持者なのである。ならば菅首相の下にある民主党にはなおのこと投票すべきではないかとも思ったが、枝野幹事長にも権力者としての盲目性はあり、衆議院における比例定数削減にはどうしても賛成する気にはなれなかった。
迷い迷って、結局、民主党に投票したわけである。民主党の支持者の中にもこのように迷いぬいて投票した者がいたことを執行部は忘れないで欲しい。
菅首相の消費税率引き上げ発言については個人的にはまったくマイナスにはならなかった。どうしたって、引き上げざるを得ないだろう。もはや「まずは無駄をなくして」というような議論が通用する時期はとうに過ぎた。セイフティーネットの不備が消費低迷、少子化の根本の原因としてあるのだから、ここに手をつけない限りどうしようもない。
これまでの首相たちは、「私の任期中は税率は上げない」というようなことばかり言ってきた。税率引き上げが不要ならば「かくかくしかじかで税率引き上げは不要である」と言えばいいのである。しかしそれは言わずに「将来的には必要だけども私は泥をかぶらずに先送りする」と言ってきたのである。
もしこの大敗が菅首相の消費税率引き上げ発言のせいであるならば、これは名誉ある敗北というしかない。菅首相は指導者としての最低限度の任を果たした。
しかし私はこの敗北は菅首相のせいであるとは思っていない。もし本当にそれが不可避であるならば国民は痛みに耐える覚悟は出来ている。
この敗北は小沢一郎的なるもののせいであろう。


しかし小沢一郎が選挙達者なのは確かであろう。二人区にふたり擁立した戦術を、票が分散して云々と批判する意見もあるが、結果を見れば分かるように、二人区で民主党が一議席もとれなかったところはない。候補をひとりに絞っていても、ふたり擁立していても、結果が同じであるならば、二議席独占する可能性に賭けるのは当たり前の話である。三人区で二人擁立したところでも、一議席は確保しているのであり、「民主党の第二の候補」は多くは次点に泣いている。いま少し風が吹いていれば充分に三人区でも二議席をとることは可能だったのであり、このあたりの段取りは、さすがに小沢は選挙巧者であると評さざるを得ない。今回の結果はむしろ小沢の選挙戦略の確かさを証明している。
比例区でも民主党は第一党を確保したので、民主党の敗因は主に一人区での負け越しのせいである。自民党とぶつかった場所で、「反自民票」よりは「反民主票」の方が大きかったということである。
社民党選挙協力が出来なかったこと、共産党が独自候補を擁立したことも痛かった。それらがクリアできていればおそらく結果は激変していたであろう。
つまりはこの大敗は世論のおおきなうねりのせいというよりは、政党間のわりあいテクニカルな原因に拠るところが大きい。
それも引いては数を頼りに懸案を押し通そうとする永田町内での日々のスタンスのせいである。


東京選挙区で蓮舫議員が約170万票という前代未聞の得票数でトップ当選した。二位当選者にダブルスコアで勝っている。憲政史上、最高得票であった。
彼女はこれで、次世代の首相候補の位置についたと言っていいだろう。舛添要一議員のように、このところ参議院議員でありながら、閣僚となるばかりか、首相候補と見なされる人物が続いている。竹中平蔵議員が首相候補に取り沙汰された頃は、それでも「彼は参議院議員なのだから首相になるのはあり得ない」との声も少なからずあったが、急速に衆議院参議院の垣根、性格の違いがなくなってきている。
今回の参議院選挙でも、元々は衆議院議員であった猪口邦子片山さつき佐藤ゆかり(以上、自民党)、片山虎之助(以上、たちあがれ日本)らが当選していて、衆参フュージョン現象が進んでいる。
参議院はますます人的にもその独自性を失いつつあり、存在理由を失くしている。いよいよ参議院有害論が実質を帯び始めた。
蓮舫議員は衆議院に鞍替えすべきである。


神奈川選挙区で現職法相の千葉景子が落選した。神奈川県民の千葉嫌いは異常である。ディズニーランドもないくせに。
それはともかく、これは彼女が仕事をしていたことの証であり、それだけ標的になりやすかったということでもある。
個人的には残念であるが、これもまた民意であるならば、選挙に落ちた閣僚を留任させることは望ましくない。
筋論を軽視するものは、そのうちに報復される。


選挙速報番組ではテレビ東京が評判が良かったようだ。私はいつものようにNHKを見ていたので、見逃したが、池上彰さんが「やりたい放題」だったらしい。見ればよかった。