立法府の長

安倍首相が自分は立法府の長だ、と発言したことについて、当然、批判が出ている。制度的には彼は行政府の長ではあっても立法府の長ではないのだから、当然ではある。
ただ、議院内閣制にあって、内閣総理大臣内閣総理大臣として行政府を掌握し、与党党首として立法府を掌握しているのは制度的な実態なので、実質的には安倍首相が立法府の長、というか立法府において一番影響力のある個人というのは間違いない。
議院内閣制というのはそういう制度なのだから。
そういう実態があるときに、名目でいや立法府の長は国会議長であり云々とくさすのはクイズ的、腐儒者的退廃に見えなくもない。三権分立云々を言うならば、議院内閣制はそもそも三権分立を徹底していないのであって、虚構的な三権分立にのっとって安倍首相の発言をやいのやいのと言うのも、知的退嬰にしか見えない。そういう人たちは国家制度というものについてきちんと考えてみたことがあるのだろうか。
日本国憲法の基本の設計思想は、国会は国権の最高機関と規定がある以上、国民公会的な議会独裁を念頭に置いている。そもそも三権分立は補助的な意味しか与えられていない。
問題は、国会が主であり、内閣が従であるべきであるのに、内閣総理大臣が国会議員の中から国会の指名によって選出される規定があるためにかえって、一人の人物が行政府と立法府の双方を支配することになり、その人物の前において国会が従になる、つまり内閣に国会が従う構造が実態として出現することだ。
こうしてみると議院内閣制における首相は、大統領制における大統領よりもはるかに強大な権限を持っていることになる。実態として存在もしておらず機能もしていない三権分立金科玉条のようにあたかもそれがあるかのように泣き叫ぶ者をインテレクチャルとはとても呼べない。