奥様ファシズム

図書館にも女性専用席 ホームレス対策…「不公平」の声も - Yahoo! JAPAN ニュース
↑のニュースを受けて、
http://d.hatena.ne.jp/Romance/20080830#p1
http://d.hatena.ne.jp/chnpk/20080831/1220163097
http://d.hatena.ne.jp/muffdiving/20080830/1220185777
こういう意見が。
フーコーウェーバーだってのはどうでもいいのだが、私が気になったというか、笑ったのは、元ニュースの以下の部分。

 いつも利用しているという主婦は(58)「ホームレスがいっぱいで利用しづらかったから、女性専用席は悲願だった。おかげで落ち着いて読めるようになった」と話す。

これを直接受けて、のことではないが、コラムニストの勝谷誠彦氏は次のように言う。

「看板を立ててトラブルから逃げようとする図書館員の事なかれ主義だ。税金を払わないホームレスを図書館に入れること自体おかしいし、女性だけの席をつくるのは公平でもない」

税金を払わないホームレスが図書館に入ることはおかしいとして、税金を払わない主婦が図書館に入るのはおかしくないのか?
私は図書館などの公共サービスを利用できる資格が「税金を払っているから」だとは思わないが、仮に税金を払っている/いないを重視するとして、ならばどうして主婦の場合はそれが問われないのかを疑問に思う。
一方はことさら、それが問われ、排除されようとしているのに、他方はそれを排除したいという欲求に行政が加担さえしている。
図書館を利用しない私にとって、主婦とホームレスのどちらが迷惑かと言えばそれはもちろん、主婦だ。ホームレスは主婦に比較して断然、数が少ないし、主婦のように制度的な優遇を受けていない(つまり制度上の負担を他の者は強いられていない)。
ホームレスに対する福祉は困窮する者に対する福祉という、福祉本来の目的に沿ったものだが、主婦への優遇は単に政府の家族政策に拠るものであり、しかも実際にはかなり適当な基準である。
私からすれば主婦もしくは専業主婦世帯の方がはるかに迷惑な存在なのだが、明らかに公共から優先的に優遇を受けている彼女らが、ある市民が公共施設を利用しているだけのことに文句をいい、ここでも更に優遇措置を受けている。
私はこのようなもの、つまり想定される主流派の利益を最大化することがすなわち福祉、とみなしがちな態度を奥様ファシズムと言っている。
コンビニエンスストアの夜間営業規制や、まさしくホームレス対策の遅れ、その原因である税収の不足、税収の不足を引き起こしている中間所得層に対する過度に優遇された税制、これらはすべてこの種の奥様ファシズムに由来している。
私はかねてより、ホームレスを殺しているのは主婦である、と言っているのだが、引用中の主婦の弁などはまさしく自らの加害者性に鈍感なればこその弁である。
図書館という場に限って言えば、ホームレスが場違いであり周囲に対して過重な迷惑をかけ、おそらくは本来の利用方法をしていないことはいえるだろう(しかし何が本来の利用方法かを厳密に定義するのは難しい)。
しかしもちろん、公共施設は市民すべてに開かれ、その中にはホームレスも含まれているので、現実に排除は出来ない(だからこのような対症療法が出てくるのだ。間違った対症療法だと思うが)。
ホームレスが不愉快な存在だと言う感情自体は、理解できなくもないが、市民社会とは市民社会を支えるために不愉快を甘受することも求められる社会である。
それが市民社会を支えると言うことであり、市民社会を支える責任を果たすということだ。
私は間違った政策だと思うが、ともあれ民主主義社会の合意として、子の福祉の拡充ではなく、主婦に対する優遇措置を政府が政策としている以上、労働者としてそのための負担に応じなければならないのと同じことなのだ。
より濃厚に支えられている存在である主婦が、ホームレスである市民の利益を支える市民的責務、あるいは女性専用席によって排除される男性の利益を支える市民的責務を、明らかにないがしろにすることが通用するのであれば、そのような奇妙な現象がまかりとおるのは、まさしく奥様ファシズムの空気がそれを支えるからだ。
子供を私立に行かせるために、子供を塾に行かせるために、年数回の家族旅行をするために、薄型テレビを買うために、自家用車を維持するために、家族が自分で食事を作ったり掃除をしないですむよう主婦が家にいて収入を得なくてもすむために、年にもう100万円もの税負担をして低所得者層に対する福祉を拡充することなく、ホームレスを切り捨ててきたのが奥様ファシズムである。
そのせいでホームレスに対するシェルターさえ満足に整備も出来ないでいる。
その結果、事実上唯一のシェルターとして機能し得る図書館に、ホームレスが流入すれば、専用席を作り、彼らを遮断するのだ。
こうした状況にまったく政府が加担していないならば、もちろんそうした状況は問題だとしても、自律的なメカニズムの結果生じる不可避の現象だと言えなくもない。
酸素ボンベが不足しているためにたまたま運悪く死ぬ患者と同じことだ。
しかし政府はトリアージをしているのだ。しかもその基準は、より濃厚に必要な者に福祉をふりわけるという基準ではなく、単に主流派の利益を最大化するという基準である。
平日の昼間に図書館を利用できる者などは限られているだろうから、利用者の声としてあらかじめフィルターがかけられている。
そこでは産業社会の中核にいる人たち、勤労者の声は届かない。
その負担によって勤労の枠外にいる主婦が、平均的な勤労社会から脱落したことによって勤労の枠外にいるホームレスを嫌悪し、叩く。
私は勤労者なので、言うのだ。いや、叩いているあなたの方が少なくとも私にはより迷惑ですよ、と。ホームレスは脱落しただけなのに対して、あなたたちは制度的に負担を強いていますから、と。