親の因果が子に報い

親の因果が子に報いる、特に負の要素であるならば、そういうことが現代社会ではあってはならないわけである。
そうした要素を完全に除去できるわけではないが、政府が加担するのであれば話は別で、公共が加担して親の言動の責を子に負わせるようなことはこれはもう絶対にあってはならないのである。
ところが、日本国憲法でも定められているようなごく基礎的な法認識さえ踏まえていないような、夢見がちな人たちが多数いて、「恨むなら親を恨め」などと言う人がしばしばいる。
そうした人たちが現実主義を気取るのは笑止と言うしかなく、小学校の社会科からやり直してはいかがでしょうかと言いたくなる。
代理出産の問題、民法の300日規定の問題、婚外子差別の問題、そして国籍法の問題。
訴訟になり、違憲判決が出たものもあればそうではないものもある。
違憲判決が出ていないにせよ、それは立法権との兼ね合いから留保されているのであって、立法府に状況の是正を多くは求めていることから、そうした状況そのものが是とされているわけではないのだ。
しかし民法婚外子差別規定などは立法府による是正が促されてなお、立法府は放置をしている。
これが家族のありようを変えてしまうのではないかとの懸念が保守政治家の間に根強いからであって、そうした人たちは差別の問題の実在を認識しながらも、その是正には無関心なのだ。
「恨むなら親を恨め」
という態度と、
「問題はあるがそれを是正すれば他の問題が引き起こされるので慎重に対処する」
という態度は違うようだがもたらされる結果は同じことである。その引き起こされる問題というのが、単に標準世帯を規格として押し付けるというような幻想性の強いものであっても、彼らがそれを問題として認識するのであれば、その問題の解決と差別状況の克服をどうやって克服するのかを提示するべきなのに、ただそれが問題であると言うのみで思考停止している。
それは結局、差別を許認しているに過ぎないのである。
つまり立法府に期待したところで、立法府自身による差別状況の是正は期待できないのが、これまでの現実であり、流れであって、憲法の定めた人権を擁護しなければならないという国家に求められた要請を基礎に据えるならば、司法が立法権を理由として問題を立法府に預けるのは許されないと言わざるを得ない。

蕨のフィリピン人一家不法滞在:東京入管、仮放免を1月まで延長 /埼玉
 ◇「期限付き」なお不安

 不法滞在で27日が国外退去期限だったフィリピン人で蕨市の市立中学1年、カルデロン・ノリコさん(13)と両親に対し、東京入国管理局は同日、来年1月14日までの仮放免延長を認めた。ノリコさんは「少しほっとしました」と緊張を緩ませたが、一家が求めている在留特別許可はおりず、再び期限付きの不安定な生活が続く。【稲田佳代】

 ノリコさんの父アランさん(36)と母サラさん(38)は、92〜93年に他人名義のパスポートでフィリピンから入国。95年に日本で生まれたノリコさんは家庭でも学校でも日本語だけを話して育ち、「自分は日本人だと思っていた。日本が大好き」と話す。

 しかし、06年にサラさんが入管法違反で逮捕され、一家は退去強制処分に。取り消し訴訟も敗訴し、今月20日には法務省文部科学省を訪れ、在留特別許可を求める署名と嘆願書を提出していた。支援する渡辺彰悟弁護士は「タガログ語が分からないノリコさんは、フィリピンで小学1年からやり直さなければならず、再来日も最低10年は難しい」という。

 退去期限の27日、両親は入管へ出頭。ノリコさんは学校へ行ったが、出頭の時間が近づくにつれ授業に集中できなくなった。「もし電話に出なかったらどうしよう」。不安を抑えて昼休みにアランさんへ電話をかけ、仮放免の延長に「あーよかった」と喜んだ。

 ノリコさんには、親友と将来、ダンススクールを開く夢がある。「不法入国した両親はいけなかったと思う。でも今頑張ってまじめに生活しているところも見てほしい。大好きな日本で勉強を続けさせてください」と訴えた。今後もJR蕨駅前で署名活動を続けるという。

http://mainichi.jp/area/saitama/news/20081128ddlk11040284000c.html

上記のような事件があった。
過去に類例の事件としては、マンデート難民であるクルド人を強制送還させた事件(参照)、イラン人アミネ・カリルさん一家を強制送還させた事件(参照)があった。
今回の件は、両親についてはそれらと比較して他人のパスポートで入国し、不法滞在を続けていたという点で悪質である。
これら当事者である両親のみであるならば、国外退去処分は妥当だろう。
ただ、日本で生まれた未成年の子がいて、この子を含めて退去させるのが妥当かどうかという判断になる。
生地主義を採る国であれば、もちろん無条件に滞在許可が出るケースであって、そうではない国でも多くは人道上の観点からそうなる可能性が高いケースである。
法務大臣の許認による在留特別許可はまさしくこうしたケースに対処するためにあるのであってそれを適用したところで法治はなんら揺るがない。
この子は日本国籍ではないが、日本に居住し、日本政府の判断に委ねられている子である。
日本国もまた保護義務を負っている。
日本も批准している子供の権利条約では、第三条で子供の最善の利益を考慮する義務を締約国に課しており、この場合、日本に滞在を続けるのが明らかにこの子の利益であり、当人の希望でもある。
仮に子供の権利条約を日本が締結していないとすれば、それはそれで国家主権の範囲内であるが、国際的な非難は避けられないだろう。締結して、子供の人権を守る国という栄誉に浴したいのであれば、その義務からも逃れられないのである。
法治を危うくしたくないのであれば、条約もまた法であるので、より優先されるべき法を遵守するよりない。